上弦の月

メガネ……

「おはよう、翼」
「ああ、Good M……」
 聞こえてきた親友の声に挨拶を返そうと振り返り、
 ……翼は硬直した。
「What?! 一、何だそれは」
「あ? 何の事を言ってるんだ?」
「その、……メガネの事を言っている!」
「メガネ?」
 そこで一は、ああ、と声を漏らし手を打つ。
「ほら、先生に勉強してるっていう誠意を見せようと思ってさ。
 悪くない案だろ」
「案は悪くないかもしれないが……」
 そう言いつつ、翼は一の眼鏡を見る。
 どう贔屓目に見ても、今、一がかけている眼鏡は似合わない。
 ファッションセンスに自信のある自分がいうのだ。
 いや、ファッションセンスが一般的な人もこう言うだろう。
(それは間違っているだろう、と)
「一、何故そのメガネを選んだんだ」
「あ? だって、よく頭のいいヤツってこういうのかけてるだろ?」
「まあ、コミックの中では見たことあるが……」
 なかなかそんなくるくる渦が巻いたメガネをつけたヤツなぞいない。
 そんなのは昔見たアニメの浪人生くらいだ。
「ま、まさか」
「あ? あ、こら!」
 急いで一のメガネを外す。
「“3”にはなってなかったな」
「は? 何言ってるんだ」
「いや、そんなくるくるメガネを見ると目が3になってやしないかと」
「何だそりゃ」
「……何でもない」
 そう言ってメガネを一に戻す。
「あら、翼くん一くん、おはよう」
「担任」
 そこに我らクラスXの担任・南先生がやって来た。
「何話して……ぶ」
 担任は急いで手で口に蓋をする。
 ……一のメガネだな。
「な、何で……一くん……瓶底眼鏡、なの?」
 担任、声が震えているぞ。
「似合わないか? 俺の誠意を表してみたんだけど」
「に、にあ、似合わなくは、ぶふっ、な、ないけど」
「そうか」
「わ、私、さ、先に教室に行ってるわね、また後でね、一くん」
「ああ」
 担任は足早に去っていく。
 どうやら笑いをかみ殺せなくなったらしい。
「先生も喜んでくれたみたいだし俺嬉しいや」
「それは良かったな」
 一のメガネを見る。
 ……何時外すんだろうか、これは。

「卒業式には外そうと思ってたけど、先生喜んでくれたしずっとかけてようかな」
「やめろ!!」

(作成日:2007.08.26)

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