上弦の月

デートのお誘い

「あー、う、ん、ごほっ」
 喉を整える。そして、深呼吸。
「こ、今度の日曜日、キ、キミさえ良ければし、森林公園などいかがなものだろうか」
 …………。

「違う。もっとスマートに言えないだろうか」
 格は半自己嫌悪になって溜め息を吐く。
 これじゃ練習している意味がない。
 見てみろ。練習相手の母の写真が笑っているではないか。
「……ごほっ。あー、君。
 ここにチケットがあるのだが一緒に森林公園などどうだろうか」
 …………。
「…森林公園にチケット云々は関係ないじゃないか」
 頭をかかえる。これじゃ全然駄目だ。
 その時、手元に置いてあった携帯電話が部屋に鳴り響いた。
「はい、氷上です」
「あ、格くん?」
「き、キミか。ど、どうしたんだい」
 さっきまでデートに誘おうとしていた張本人から電話がかかってきて焦る。
(ど、どうする、氷上格。今、誘わないでいつ誘う)
「そ、そうだ。こ、」
「今度の日曜日、森林公園に行かない?」
「あ、ああ、その日は何も予定は入っていないよ」
「良かった。じゃ、今度の日曜日に」
「ああ。楽しみにしてるよ」
 極力平然を装いながら、電話の電源を切った。
 …………。
(ああ、神様。感謝します)
 心の中で神様に感謝の言葉を捧げる。
 流れはどうあれ今度の日曜日に目的の人物とデート出来るのだ。
(でも、今度は自分から誘わないと……)
 決意も新たに拳を作った。

(作成日:2007.10.20)

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