上弦の月

冤罪

「ちょっと、アキラ」
「あ?」
 振り返るとそこには知り合いの金髪の少年がいた。
「何だ、リン」
「何だじゃないよ。アキラだろ、あそこに置いてたソリド食べたの!!」
「あ?」
 アキラは先程と同じ台詞を繰り返す。
「知らねえよ。ってか、俺が来た時にはすでになかったぞ、そんなもの」
「そんなもの、って。じゃ、誰が食べたっていうのさ。ここにはアキラしかいないじゃないか。  な訳でやっぱりアキラだ! 俺のソリド返せ!!」
「……お前、それ返ってきたら犯人誰だっていいんじゃないのか」
 そんな感じの攻められ方だ。そんなに食べたかったのか。
「でも、リンならブタたくさんあるだろ。それでまた替えてもらったらいいんじゃないのか」
「何いってるの?! あの味は最後の1個だったんだよ!! 明後日まで入んないんだから!!」
 ……ここって入荷日、あったんだな。
「あれ、何やってんだ、二人で」
「あ?! 源泉!?」
「ああ、ああ。そんな不機嫌な顔すんなって、リン」
「今はそれどころじゃないんだよ。アキラからあのソリドを出させないと!」
 それどころ、って何だ?
「だから、俺じゃないし。第一、最後の1個だったんだったら、誰かが食べたんだったら出せないだろ」
 俺の真面目な台詞にもリンの勢いは全然止まらない。その前に既にリンは人の言葉を聞いていない。
「出せー! 食べたものを出せー!」
「無理だろ」
「吐けー!」
「汚いだろ」
 そんなにして食べたいか。いや、多分食べられた恨みによる意趣返しっぽい。
「何言ってるんだ? ソリドだったらまだあるだろ」
「落とせー!」
「なくなったヤツの味が最後の1個だったんだと」
 暴走しているリンの変わりに俺が源泉に説明する。
「へえ、何味だったんだ」
「“サバイバルメロンの納豆漬け”味」
「…………」
 まずそうだ。というか、そんな味があったのか。
「ああ、あの灰色の」
「……灰色」
 ますますまずそうだ。
「それならさっき食ってたヤツ見たぞ」
「え?」
「誰?!それ」
 源泉の台詞に驚きの声があげる。リンの方なんか突拍子もない声を出している。
「ああ……それは」
 源泉は何故かとてもいいにくそうだ。
「……シキなんだよ」
「……シキ」
 リンの目の色が変わる。
「吐き出させてやるー!!」
「あ、おい」
 リンは瞬く間に外に飛び出していった。
「……本当にシキが食べてたのか、それ」
「ああ、あれは忘れようにも忘れられないぜ」
「?」
「おいちゃんもびっくり。灰色のソリドを食べながら人を切り殺すの図」
「……忘れられないな」
 あの赤い瞳が灰色のパンを食べながら人を切り殺す。想像するのが難しい。
「でも、良かったじゃないか。冤罪が晴れて」
(違う方の冤罪も晴れて欲しいんだけどな)
 俺は心の中で溜め息をつく。まだまだ道は険しそうだ。

「そういや、リンは本当にシキのところに行ったのか?」
「さあな」

(作成日:2009.02.11)

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