上弦の月

編入生

「あ~あ、オレっちも天照館だったら良かったなぁ」
「何、急に」
 隣で何か嘆いてる風な京羅樹に声をかける。
「だってさ、そうだったら飛鳥ちゃんともっと早く逢えてたでしょ」
「……あ、そう」
 京羅樹の方に向けていた視線を再び本に戻す。どうやらいつものたわ言のようだ。
「ちょっと、飛鳥ちゃん、聞いてないでしょ」
「あー、京羅樹、あんまり大声出すな。ここ書院なんだから」
「無視ですか?」
「……そんなに天照館がいいんだったら、今からでも編入できるんじゃないか?」
 先程まで黙って本を読んでいた薙がポツリとそう呟く。薙の隣で宿題とにらめっこしている晃もその後に続く。
「そうそう、そしたら、月詠におる時より長く飛鳥とおれるんちゃうか?」
「今からでもねぇ…」
 京羅樹が思案の表情を浮かべる。あの顔は半分本気だ。
「迷うんだったら想像してみたらいいんじゃないか?編入してきた時の図」
「編入の図」
 薙の言葉に皆が頭の中で想像を巡らせる。

「それでは、編入生を紹介します」
「Hello。知ってる子は多いと思うけど、とりあえず自己紹介。京羅樹崇志です。よろしこ」
「じゃ、京羅樹君の席は伊波君の隣ね」
「よろしく、飛鳥ちゃん」
「……」
「軽く無視らないでよ。それとも、もしかして飛鳥ちゃん、テレてる?」
「いや、ありえないし」
「またまた、そんな嘘ついちゃって」
「嘘……って、うわっ!! 抱きつくな、離れろ、京羅樹~!!」
「石見先生。京羅樹君が伊波君にセクハラしてます」
「ああ~、まぁ、大丈夫でしょう。じゃ、授業に入ります」
「先生~!!」

「あ、いいねぇ。こういう学園生活」
「……」
 少々頭痛がする。今でさえ大変なのに、編入なんかされた日にゃ、この先体がもつのか。京羅樹の編入は絶対阻止しなければ。
「崇志は学ランが似合いそうにないな」
「いや、薙。言うところはそことちゃうと思うで」

(作成日:2006.11.28)

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