第99回 王最版深夜の一本勝負
お題「体調不良」
(……さむい)
十二月も半ばを越え、気温は一段と下がっていた。暖房が入っていない部屋は、暖かくなるわけもない。少しでも暖かくなるために布団を引き寄せる。だが、あまり効果はなかった。
(暖かい、もの)
隣に向かって手を伸ばす。暖房を入れ忘れた原因だ。昨夜は、確かにそこに熱があった。
(……つめたい)
手を上下に動かす。シーツは、全然暖かくなかった。
目を開けて、倦怠感が残る身体を起こす。あたりを見渡すが、誰もいない。
「おうま、く……ゲホッ」
声がうまく出ない。喉を酷使しすぎたか。
(王馬くん、帰ったのかな)
もしかしたら、メモを残してるか、携帯にメッセージがあるかもしれない。朧げな記憶を手繰り寄せる。確か携帯は、リビングの机の上だったはずだ。
リビングに向かうため、ベッドを降りようとした。が、踏ん張ることが出来ず、シーツを巻き込んで床に倒れた。
「あ、れ……?」
身体がとても重い。こんなに動かないのは初めてだった。
昨夜の行為が原因だろうか? だが、別に昨夜がはじめてというわけでもない。喉が嗄れたことも腰を痛めたこともある。
(そうだ、あの時も激しかったけど、ここまで身体が酷くは……は、激しか、くっ)
頬が熱い。いらないことまで思い出してしまって、床の上で悶絶する。これも全部、王馬くんのせいだ。
「最原ちゃーん。冷蔵庫何もなかったから、お茶買ってきたんだけど……あれ? 最原ちゃん、シーツと戯れて何やってんの?」
どこかから帰ってきた王馬くんを下から睨みつける。僕がこんな目に合っているのに呑気なものだ。
「もしかして、オレを驚かそうとお化けのマネっこをしようと思ったとか? 最原ちゃんってば、短絡的だなー。そんなことで悪の総統が驚くわけないでしょ」
王馬くんが僕の顔を覗き込んでくる。その顔がどういう表情を浮かべているのか、視界がぼやけてよく見えない。
(あ、れ?)
「そんな熱っぽい目で見られるのは、嬉しいんだけど……ん?」
王馬くんの手が僕の頬に添えられた。外に行っていたからか、手は冷たくて気持ちいい。思わず、頬をすり寄せる。
「……最原ちゃん、熱あるでしょ。ベッド戻ろうか。ほら、ここ持って」
王馬くんに促されて、首に腕を回す。王馬くんは、そのまま僕を抱き上げて、ベッドに戻した。
「うーん、暖房はさっき入れたし、水分は今持ってるのでいっか。あとは、」
王馬くんがぶつぶつと何か言いながら、ベッドから離れようとする。
「お、まく」
王馬くんの服の裾を掴む。
「べっど、つめたい」
「……うわぁ」
他にも何か言いたいことがあったけれど、上手く言葉が出ず、もう一度服を引っ張る。
「あーあ、最原ちゃんってば、甘えたなんだから。悪の総統に甘えるだなんて、本当はできないんだからね?」
王馬くんは、文句を言いながらもベッドの中に入ってきてくれた。そして、僕を抱きしめてくれる。
「おやすみ、最原ちゃん。起きたら覚悟しとけよ」
「うん」
王馬くんの胸に顔を寄せる。暖かい。きっと、今日はとてもいい夢が見れる。
(作成日:2018.12.23)