第97回 王最版深夜の一本勝負
お題「宝箱」
自分の部屋をあけると宝箱があった。
RPGなんかでよく見る、あの宝箱だ。色が白と黒でどこかの誰かを思い出させることをのぞけば。
「……どうしよう」
一旦、外に出してしまおうかと持ってみるが、少しよろめいた。女子よりやや重いくらいか。運べないことはないけれど、まずは運ぶ先を決めてしまいたい。
この宝箱を持ってきた人物の手がかりがないか、ぐるっと回してみた。
ふと、側面に4桁の番号を入力できるところを見つけた。その少し上の部分には、ヒントと思われる文字も記載されている。
『最原ちゃんの好きな人の誕生日を入力してね!』
「……やっぱりか」
僕のことを《最原ちゃん》と呼ぶ人物は一人しかいない。思わず、ため息が漏れた。
「好きな人、ね」
王馬くんが、誰の誕生日を入力して欲しいかは想像がつくけれど、素直に入力するのも癪だった。
「……そうだな。0、4、1、2」
「ぶっぶー」
「…………は?」
宝箱が鳴いた。イヤな予感がする。
(この宝箱の中身って)
「あと10秒で正しい数字を入力しないと、この宝箱は爆発します。10、9……」
「え?」
宝箱の中身は勝手にカウントダウンを始めた。どうせ嘘だろうが、0になった瞬間に何をされるか分かったもんじゃない。
(さっさと外に出してしまおう)
宝箱を持ち上げる。そのまま部屋の外に持っていこうとしたのだが、中身が揺れた。僕はバランスを崩して、その場でたたらを踏む。
「う、うわっ」
「3、2、1、どーん」
勢いよく宝箱が開いた。中身が飛び出した反動で、箱を思いっきり落とす。間に合わなかった。
「最原ちゃんの浮気者ー!! 真っ先にオレじゃない男の誕生日入れるなんて、泣いちゃうんだからね! ウェアアアンヤェャァァァ」
「えっと、王馬くん、何やってるの?」
耳を塞ぎながら、王馬くんに尋ねる。
「あれ? 最原ちゃん、知らないの? 最近、希望ヶ峰では大事なものを宝箱に入れるのが流行ってるんだって」
「えっと? それとこれとがどういう?」
「最原ちゃんの大事なものってオレでしょ? だから、前もって入っておいてあげたんだよ。オレってばとても親切だよね!」
あまりにも身勝手な理由に額を押さえた。その手を王馬くんに掴まれる。
「うん?」
「最原ちゃんの大事なものは箱におさめたから、次はオレの番ね」
「え?」
「大丈夫、大切に扱ってあげるからね。オレのベッドの上で」
王馬くんに引きずられて、宝箱の中に入れられる。元々が王馬くんサイズだったせいで、足がはみ出した。
「待って、無理! 無理だから!」
「じゃあ、オレの部屋に行こうね! レッツエンジョイ」
「う、うわぁああっ」
王馬くんは、そのまま宝箱を持ち上げる。宝箱は、蓋を閉められず、持ち主の部屋に戻されるのであった。
(作成日:2018.12.09)