上弦の月

第94回 王最版深夜の一本勝負
お題「偽証」

「ご注文は以上でよろしいですか? 今なら、オプションでドリンクにトッピングをお選びいただけます」
「へー、どれどれ」

 オレは、店員に言われるまま、メニューを覗き込んだ。オプション欄と書かれた場所をゆっくり読む。

(カステラ、タピオカ、フリスク(ブラックミント)、マスタード)

 飲み物に入れるには、あまり相応しくないものたちだ。見ている欄を間違えたかと思い、おろしていた視線を上に戻す。だが、そこには『ドリンクトッピングオプション ※指定したものをドリンクに入れます』と書かれてあった。

(大丈夫か、このお店)

「あー、じゃあ、フリスクお願いします。量は自分で調整したいから、ドリンクには入れないでね」
「かしこまりました」

 店員はすぐに頼んだプァンタと黒いケースを渡してきた。フリスク1ケース丸ごとかよ。

「ありがとうございましたー」

 店員の声を背中に聞きつつ、お目当ての人物を探す。あたりはつけてあった。

「あ、最原ちゃーん、待ったー?」
「別に待ってないけど」
「そんな! 『王馬くんに会えないと、僕死んじゃう。助けて』ってメッセージくれたの忘れたの?」
「それ送ってきたの、キミの方だから」
「にしし」

 最原ちゃんに向かい合う形で座る。テーブルの上には、読みかけの小説と茶系統の飲み物が置かれていた。いつもの烏龍茶だろう。

「……あれ?」

 さっそくプァンタに口付けながら、最原ちゃんの飲み物を再度見た。いつもの烏龍茶かと思っていたけれど、何だか様子が違っている。

(泡……?)
「最原ちゃん、それ何?」
「それ、って、烏龍茶?」
「烏龍茶? でも、底が何か黒いけど?」
「ああ、それはオプションでトッピングを選べたから、……タピオカを」
「何で選んだの?! 最原ちゃんがタピオカジュースを好きなのは知ってたけど、烏龍茶に入れるものじゃないよね?」

 オレのツッコミに、最原ちゃんは不機嫌そうに眉を寄せる。

「入れちゃったものは仕方ないだろ。タピオカが入ってるからって、これが烏龍茶じゃないという証明にはならないよ」
「でもさ、最原ちゃん。この飲み物、泡あるじゃん?」

 今もコップの中でぷすぷすと上がる気泡を指差す。

「ああ、多分保存方法が良くなかったんだろうね。烏龍茶に僅かながら気泡が混じってしまったんだよ。炭酸の味なんかしない。これを飲んでいないキミには、分からないだろうけど」
(〝炭酸の味なんかしない〟ねー)

 オレは、黒いケースを見る。
 あの烏龍茶と主張されている飲み物が、炭酸どうかを確認できるアイテムならある。

「じゃあ、これで証明してやるよ」
「ああっ!」

 オレは、勢いよくフリスクを飲み物に突っ込んだ。途端、飲み物が盛大に泡を吹き出す。

「この反応! フリスクを烏龍茶に入れてもこうはならないよね? これは、炭酸飲料だよ」
「ぐっ」
「最原ちゃん、なんで烏龍茶なんて嘘ついたの?」
「だって……」

 目を伏せて、こちらをチラッと見てくる。なにその仕草、そそる。

「王馬くんって、いつもプァンタ飲んでるじゃないか」
「うん? まー、そうだね」
「だから、王馬くんが普段飲んでるものってどんなのかな、って。でも、同じのは、……その、だから、同じ炭酸のコーラを」

(なにそれ、かわいい)

 最原ちゃんは恥ずかしくなったのか、コーラを一口飲んだ、……が、むせた。

「だ、大丈夫?」
「ふ、フリスクの味が」

 どうやら、フリスクとコーラがハーモニーを繰り広げているらしい。少し責任を感じたオレは、プァンタとコーラを入れ替えた。

「え?」
「本当はプァンタが飲みたかったんでしょ? オレはちょうどコーラを飲みたかったからちょうどいいね!」

 オレはそう言いながら、コーラを一口含む。フリスクとコーラとタピオカの、絶妙に微妙な味がした。

(刺激つよ)

 愛しい人を眺めることに意識を向けることで、ひっくり返る胃を何とかおさえつける。

「あっ、甘」
「どう? オレの味、わかった?」
「バカ」

(最原ちゃん、かわいい。けど、オレ耐えれるかな)

 いつもの笑みを顔に貼り付けたまま、まだ半分も残っている魔の飲み物を強く握りしめた。



(作成日:2018.11.18)

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