上弦の月

第8回 深夜の王最小説60分一本勝負 お題「カンショウ」「ショウガイ」
カンショウの果てに

『冠省 王馬小吉様
 上記の者は、この先への干渉を禁ず
 草々』

王馬は扉に貼られた紙を見つめて米神を叩く。
彼は何をやりたいのか?
そもそも締め出しを喰らう理由は何か?
心当たりがありすぎて全くわからない。

「ま、本人に聞けば手っ取り早いよね。
 うーん、でも、困ったなぁ。
 この扉の鍵、オレ持ってないし、最原ちゃんからは扉への干渉を禁じられちゃったし」

何の迷いもなく懐から針金を取り出す。
針金を鍵穴に突っ込むと扉は軽快な音を立てて先へ続く道を開けてくれた。

「紙くらいでオレを留めておけるなんて思ってる方が間違いだよねー」

部屋の中に一歩踏み入れる。
足がすべった。

「は?って、うぶっ!」

滑った拍子に扉を開けてすぐのところに白く積みあがった物体にダイブした。
緩衝材の山だ。
振り返ると扉入ってすぐのところに大量のバナナの皮がしかけてある。

「……いい度胸してるよね、最原ちゃん」

わざわざバナナの皮や緩衝材を置いておいたってことは、オレがピッキングするってことは想定済みと。
ということは、この部屋に最原ちゃんが隠れていることはない。
フェイクだ。

(このまま諦めるオレじゃないよね。
 ……えっと、昨日は最原ちゃんと何かあったかな)

本格的に脳みそを働かせていく。
最原ちゃんの居場所となりうる場所。

(昨日は、最原ちゃんを観賞しながら、101匹の犬と戯れて、最原ちゃんと観賞しながら、アヒルの群れを追い回して、最後は最原ちゃんとにゃんにゃんしたんだっけ?
 ……最原ちゃんエロかったなー)

昨日の最原の痴態を思い出して思わず下半身が反応しそうになった。
いけないいけない、それは彼に会った後のためにとっておかなければ。

(シアタールームかな……)

昨日はずっと二人でシアタールームで映画を見ていた。
狭くて暗い空間に二人っきり。
それはそれは大変盛り上がり……まぁ、それは夜になってからだけど。

(まーた、答えの出ないことで悩んでるのかな。
 飽きないよね、最原ちゃんは)

昨日の最後に流した映画。
巷で人気の恋愛映画だった。
オレは最原ちゃんを観賞してて忙しかったから内容は覚えていないけど、真面目な最原ちゃんは流れる映画に一喜一憂二憂三憂くらいしていた。

(どうせ変な感傷に浸って閉じこもってるんだろうけどさ。
 あーあ、本当になんて映画なんだろう。
 メインの男女はゴールインするのにサブの同性カップルは破局するなんて……こんなのが人気なんだから世も末だよね)

ズボンのポケットに入れた小さな箱を握り締める。
オレは破局なんかさせないし、最原ちゃんの生涯を縛るための道具だって用意済みだ。

ゆっくりとシアタールームの扉を開くと、お目当ての人物の後姿が目に入った。

「やっほー、最原ちゃん。
 愛するあなたの王馬小吉が、超絶大特価で最原ちゃんに特大の干渉しにきたよ!」

彼を逃がさないように首に腕を回して捕まえた。



(作成日:2017.08.24)

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