第88回 王最版深夜の一本勝負
お題「鳥かご」
「鳥かごって、何のためにあると思う?」
先ほどからダンマリを決め込んでいる人物に向かって、疑問を投げかけた。目の前にいる人物は、琥珀の瞳を動かしただけで口を開く気配はない。
「正解は、鑑賞者のエゴのために、自由に飛ぶ鳥を拘束する道具なんだよね。どう、分かった?」
オレはとても優しいから、お馬鹿な最原ちゃんにも理解できるように、分かりやすい言葉で答えを教えてあげる。だというのに、最原ちゃんはといえば、うんともすんとも言いやしない。
しばらく待ってみたが、オレは返答を貰うのを諦めた。代わりに、伏し目がちな琥珀を舐めるように見る。多少、濁ってはいるけれど、やっぱり綺麗だ。
柵の向こう側に手を伸ばして、白い頬に触れる。そして、そのまま顔を引き寄せた。最原ちゃんは、オレの行為を拒もうとしない。だから、オレは衝動のまま、薄い唇に噛み付いた。
「んっ」
舌で割り開いて、奥の方まで絡め取る。軽く口の中を蹂躙してあげれば、白かった頬は桜色に変わっていた。
「はぁ……ねぇ、最原ちゃんはこんなもので満足なの? オレとこの先を望んだりしないの? オレはとーっても優しいから、最原ちゃんの望むことを何でもやってあげるよ?」
唇を指先でなぞりながら問いかける。皮膚の摩擦が起こるたびに、最原ちゃんの睫毛が震えるのが見えた。
「っ……キミの口車に乗る気はないよ。王馬くんの考えてることは分かってる。だから、何度でも言うよ。これが、僕の望んだ答えだ」
「そう」
求めた答えが得られず、指を離す。最原ちゃんの瞳がオレの指先を追っていることには気づいたけれど、知らないフリをした。これが最後のチャンスだったんだけど、本当に残念だよ。
「じゃあ、もういいや。バイバイ、最原ちゃん」
柵の前から離れると、オレはふかふかのベッドに転がった。柵の方は、もう見ない。
「……また、来るよ」
最原ちゃんの足音が遠ざかっていく。どれくらい経ったか、音が聞こえなくなったタイミングで上半身を起こした。
(さて、と)
ベッドの下から急ごしらえの針金を取り出す。探偵さんは意外と目ざといから、抜き取るのも隠すのも苦労した。ポケットの中に多少の食料と役に立ちそうなものを突っ込んでいく。準備は整った。
それなりに世話になった部屋を見渡す。鳥かごのような形状のここは、オレという鳥を拘束するための檻だった。
(本当に、ただの探偵のくせして、悪の総統を飼おうなんて、趣味悪いよね!)
針金を鍵穴に突っ込む。確認していた通り、特殊な加工もしていない鍵は容易に開いた。
(オレが飼われるだけの鳥じゃないってことを思い知らせてあげるよ)
悪の総統であるこのオレを飼い殺そうとしたんだ。それなりの覚悟は決めてたんでしょ? さぁ、今度はキミの番だよ、最原ちゃん。オレのかわいい小鳥にしてあげるからね。
「にしし、本当につまらなくないよね」
(作成日:2018.10.07)