第85回 王最版深夜の一本勝負
お題「うさぎ」「しっぽ」
「最原ちゃん、ウサギってどう思う?」
僕の隣に座った王馬くんは、これみよがしにウサギの耳をもてあそぶ。王馬くんの手の中にあるウサギの耳は黒色のため、彼の髪色には合うだろう。……似合うかどうかは別として。
「キミの髪色には合うんじゃない?」
今感じたことを、そのまま口にする。そんな僕の一言を聞いて、王馬くんは信じられないという表情を浮かべた。
「……最原ちゃんって、そういう趣味だったの?」
「え?」
「オレにウサ耳をつけて喜ぶなんて、この変態!」
「何でそうなるんだよ」
あまりにも心外な罵りに、思わず反論してしまう。
「じゃあ、聞くけどさ。王馬くんが自分でつけないっていうなら、何のためにウサギの耳なんて持ってるんだよ。しかも、これみよがしに手元に置いて……」
そこまで言葉にして、ひとつの可能性に気がついてしまった。自分に装着する気のないウサギの耳。この場所にいるのは、僕と王馬くんの二人しかいない。黒は僕の髪色からも遠くはない。つまり――。
「最原ちゃんにつけるために決まってんじゃん」
「却下」
人のことを変態呼ばわりしておいて、自分が変態じゃないか。何だか相手にするのは負けな気がして、手元の本に目を戻す。
「本当はバニー衣装にしようと思ったんだけど、さすがに最原ちゃんはバニー嫌でしょ? だから、オレなりに妥協に妥協を重ねてウサ耳だけにしたんだよ。だから、ほら、つけて」
「つけないから……やめっ」
ウサギの耳をつけようとしてくる王馬くんの手を避ける。避けても避けても追いかけてくるので、最終的に手で頭をガードした。
「もう、最原ちゃんはワガママだな。じゃあ、オレがウサ耳つけるから、最原ちゃんは尻尾つけてよ。ウサギの尻尾」
「何それ、勝手に決めないで……うわぁ」
よく分からない言い分に王馬くんの方を見ると、既に頭の上にウサギの耳が乗っていた。男がウサギの耳をつけている。視覚の暴力だ。
「ほら、ウサ耳つけたよ。それで、最原ちゃんには尻尾ね。ほーら、モフモフだよ」
王馬くんがどこからか取り出したウサギの尻尾は、確かにすごくモフモフしていた。触ったら気持ちよさそうだ。
「……それが?」
「最原ちゃん、モフモフ好きでしょ? たまに一人でヤッチーくん撫でてるもんね!」
「な、なな」
一人の時にしかやっていなかった行動を知られていて、顔に熱がのぼる。いつ、見られていたんだ?
「ほらほら、好きなモフモフが自分のお尻にあるのって興奮するでしょ?」
「しないよ! ま、待って、つけない! つけないから」
隙をつかれて、王馬くんが馬乗りしてきた。頭の上に揺れるウサギの耳が、彼の行動と相反しているように見える。可愛い見た目にしたって、中はただの獣じゃないか。
「にしし、ウサギって寂しいと死んじゃうんだよ。だから、最原ちゃんはウサギのオレが寂しい思いをしないように努力しなきゃ。オレも最原ちゃんにつまらない思いはさせないからさ。まずは、ひとつ尻尾から行ってみよう」
王馬くんの無茶ぶりに意を唱えたかったが、僕は静止の声をあげるだけで手一杯だった。
(作成日:2018.09.16)