第34回 深夜の王最小説60分一本勝負 お題「ねこ」
どっちが猫?
「ただいま」
誰もいない家に僕の声がむなしく響く。
両親は海外を忙しく飛び回り、ハウスキーパーの人は僕が学校に行っている間に仕事を終わらせる。
この生活にもいい加減慣れたが、時折さびしく感じることもあった。
学校自体が賑やかであればあるほど、その反動が胸に押し寄せる。
(通知は……何もきてない)
授業が終わればけたたましく鳴るスマホの通知も、今日はなりをひそめていた。
いつもは鬱陶しいと思うのに、ないならないで寂しいなんてどうかしている。
(王馬くんの用事っていったい何だったんだろう。
また、悪の秘密結社に関することなのかな……)
放課後そうそうに帰っていった恋人を思い浮かべる。
用事で帰っていった日も、いつもなら通知をバンバン飛ばしてくるのに本当に何をやってるんだろう。
いつまでも玄関にいても仕方がないので、靴を脱いでスリッパに履き替えた。
『にゃん』
「…………」
足を持ち上げ、もう一度床を踏みしめる。
『にゃん』
スリッパから猫の鳴き声が絞りだされる。
僕は黙ってスリッパを脱いだ。
「キミは一体、何をやってるの!!」
勢いよく階段をかけあがり、自分の部屋の扉をあけ放った。
そこには予想通りの人物と、予想外の自室の姿があった。
「あ、おかえり、最原ちゃん」
「ただいま。……じゃなくて!
僕の部屋で何やってるの!?」
いたるところに、猫、猫、猫。
朝には存在していなかった猫グッズが、部屋に氾濫していた。
「何って、最原ちゃん知らないの? 今日って2月22日、つまり猫の日なんだよ!
だから殺風景な最原ちゃんの部屋を、猫で豊かに彩ってあげたんだよ。
いやー、オレってば気が利く彼氏だよね!!」
王馬くんの物言いに頭が痛くなる。
「あれ?
最原ちゃんに似合うと思って猫撫で声を出すスリッパ用意してあったのに、履かなかったの?」
「似合うって……履くわけないだろ、あんなの」
「えー、最原ちゃんは猫グッズ似合うと思うんだけどなー。
ほら、この猫耳だって」
「ちょっと」
王馬くんの手を拒み切れずに猫耳がつけられた。
カチューシャの固い感触が、頭痛と相まって頭をしめつけてくる。
「にしし、ねぇ、オレの猫ちゃん。
今日はここの準備してたから、全然構ってあげられなかったよね。
どう? 寂しかった?」
「あ……」
王馬くんのセリフに先ほど玄関で覚えた気持ちがよみがえってくる。
今は感じていなかったが、確かに一人の時とても寂しかったのだ。
「そっかー、寂しかったかー。
うんうん、オレは優しい彼氏だからね!
じゃあ、最原ちゃんが寂しくないように、今からオレと一緒に遊ぼうか」
腰に王馬くんの腕が回ってくる。
僕は拒むことはせず、王馬くんの肩に手を置いた。
「寂しかったのは王馬くんの方じゃないの?
僕の部屋を猫まみれにしてさ。構ってほしかったんだよね?」
「ふーん、最原ちゃんも言うね。
そうだね、オレ最原ちゃん不足で今にも死にそうなんだよね!
だから、その身体全部使って、オレの寂しさを埋めてよ」
そう言いながら首筋に噛みつこうとしてくるキミは、まるで。
(……本物の猫みたいだ)
(作成日:2018.02.23)