上弦の月

第31回 深夜の王最小説60分一本勝負 お題「待ち合わせ」
Q.待ち合わせ場所をこたえよ

今日は王馬くんと一緒に遊園地に行く日だ。
確か待ち合わせはバス停だったな。
さぁ、何を着て――あれ? 王馬くんからメールが来ているみたいだ。

『親愛なる最原ちゃんへ
 最原ちゃんとオレは以心伝心だから、きっと何も言わなくても分かるよね?
 今日のデートの待ち合わせ場所は、実はバス停じゃなかったんだよ。
 本当の待ち合わせ場所を以下から選んで当ててね!
 大丈夫、ヒントなんかなくたって、オレたちは繋がっているから。
 
 ①オレの部屋
 ②ラブアパート
 ③夜景の見えるホテ――』



僕は黙ってゲームの電源を落とした。
まったくろくでもない代物だ。

(なにが“待ち合わせの場所はゲームの中で!”、だよ)

いつも被っている帽子を王馬くんに奪われてから、半日が経とうとしていた。
未だに僕には彼が言っていた待ち合わせ場所が分からない。

『帽子を返してほしかったら、今日の日没までにオレの居場所を突き止めてみてよ!
 待ち合わせの場所はゲームの中で。
 探偵ならこれくらいの謎、分かるよね?』

そういって僕の手に携帯ゲームを押し付けると、王馬くんは颯爽と逃走してしまったのだ。
困惑した僕は、仕方なく王馬くんから渡されたゲームを起動してみたのだが、何故かゲームの中身は学生生活を送るシミュレーションゲームだった。
しかも、主人公は僕で固定されていて、次々と王馬くんとよく分からないイベントが発生していく。
我慢して一時間はプレイしてみたが、王馬くんとのデートしか発生しないゲームに嫌気がさした。

(はぁ、どうしよう)

手を顔の前まで持っていって、帽子を被っていなかったことを思い出しておろす。
視界がいやに広くて不安だ。

(待ち合わせ場所、結局どこなんだろう。
 ゲームの中だと、最初はバス停で待ち合わせって言うのに、直前になってクイズを出して変更してくるんだよな。
 しかも、結局当たらなくて王馬くんが迎えにくるって流れになってるし………“バス停”?)



「いた」
「やっほー、最原ちゃん」

学園にほど近いバス停。
まさかと思い訪れたこの場所に、本当に王馬くんがいた。
僕の帽子を被った王馬くんは、行儀が悪いことにベンチで三角座りをしている。

王馬くんといえば嘘つきの代名詞たる人物だ。
その王馬くんから送られてくる変更メールが“嘘”ならば、待ち合わせ場所は当初の予定通り“バス停”になる。

「王馬くん、キミの居場所を突き止めたんだから帽子返してよ」
「もう、最原ちゃんはせっかちだなー。
 分かったよ、はい」

王馬くんは被っていた帽子を脱ぐと、僕の頭に無造作に被せてくる。
そして、流れるように僕の腕をとった。

「え?!」
「えっと、もうそろそろバス来るね。
 今日は、壮大なパレードがあるんだよ。
 楽しみだね! 最原ちゃん」
「ちょ、ちょっと待って。何の話?」
「え? 今から行く遊園地の話でしょ?
 待ち合わせの後はデートって相場は決まってるんだよ」

タイミングが悪いことに、バスがターミナルに入ってくる。
予想以上に強い力に引きずられ、王馬くんとともにバスに乗り込んでしまった。

「最原ちゃんとオレの初デートへレッツゴー!」
「違う、これはデートじゃない!
 デートじゃないってば!!」

僕の人生初めてのデートは、こうして幕を開けたのだった。



(作成日:2018.01.31)

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