第2回 深夜の王最小説60分一本勝負 お題「デート」「体温」
振り回してやる
「あ、最原ちゃん、ここ座ろう」
「うん」
学校帰り。
僕は王馬くんと二人だけでファーストフード店に来ていた。
(これ……放課後デート、だよね)
王馬くんとは、先週付き合いだしたばかりだった。
振り回してくる王馬くんから目を離せなくなり、僕の方から告白した形だ。
今回は付き合いだしてから初めての二人だけの時間。
「最原ちゃん最原ちゃん」
「ん?なに……」
声のする方に顔を向けたら指で頬をつかれた。
「にしし、ひっかかった」
「~~~~~」
また、ひっかかった。
そう、王馬くんは、いつもこういう悪戯をしかけてきては、僕の心をかき乱して振り回す。
確かにそういうところも嫌いじゃないけれど……
(だけど、僕だって、たまには王馬くんを振り回したい)
『かーくん、ほら、あーん』
『ば、ばか、やめろよ、そういうの』
『ふふふ、かーくんかわいい。 ほら、あーん』
テレビから流れてくるカップルの様子が耳に入る。
(こ れ だ!!)
「王馬くん!」
「んー?」
僕は、目の前にあったフライドポテトを持って王馬くんに向ける。
「え?」
「あーん」
王馬くんは予想外のことだったのか、目を丸くしている。
これは、……勝てる!!
「ほら、王馬くん、あーん」
「…………あーん」
「え?」
王馬くんは、少し考えるふりをしただけでポテトに噛み付いてきた。
そして、そのまま。
(!?!?)
ポテトの先にある僕の指を舐めた。
「な、……なっ!?」
「んー?」
「っ!」
まるで性的なことを連想するかのように舐められる。
指先に王馬くんの口内の体温を感じる。
「どう? 最原ちゃん?」
口を離して王馬くんは妖艶に微笑む。
僕の指先は王馬くんの唾液で光っていた。
(~~~~~)
「もう最原ちゃんったら大胆なんだから」
(くっそ)
振り回そうとしたのに、敗北感しかない。
気を取り直して、他の案を考えようとした、が。
「ほら、最原ちゃん、あーん」
「え?!」
目の前では王馬くんが僕に向かってフライドポテトを差し出している。
「ほーら、最原ちゃん、食べて。 は・や・く」
「~~~~~」
王馬くんは意地の悪いとてもいい笑顔をしていた。
今日も僕は王馬くんに振り回される。
(作成日:2017.05.16)