上弦の月

第28回 深夜の王最小説60分一本勝負 お題「イタイ」「キョウカイ」
光り輝く教会

日が暮れ始めた時間。
指定された場所に近づくにつれ、僕は嫌な予感を覚え始めていた。
おかしい、あの場所はあんな奇天烈な装飾じゃなかったはずだ。
遠目でも分かる痛々しさに、僕は頭を抱えそうになった。

「うわぁ……」

街はずれの教会。
その場所にたどり着いた僕は、やはり見間違いじゃなかったことに思わず疲れた声を出した。
普段は質素なたたずまいのその場所は、今は見るも無残な姿になっている。

「なにやってるんだ」

壁に這う電飾を思いっきり引っ張る。
電飾は思いのほかしっかり留められており、まったく形が崩れなかった。

「くそっ、恥さらしもいいところじゃないか」

もう一度、壁を見上げる。
いったいどれだけの金と手間をかけたのか、教会の壁一面にハートマークが電飾で描かれていた。
ご丁寧にもハートの真ん中に『小吉V終一』と書かれている。
チカチカとピンクに光るそれらは、とてつもなく目に痛かった。
ついでに頭も痛い。

(こういうギラギラした感じ、ラブホテルみたいだ……)

思い浮かんだ考えに、さらなるダメージを受ける。
自分の名前が壁に刻まれたラブホテルとかゴメンこうむりたい。
そのとき、教会の扉が中から思いっきりあけられた。

「さいはらちゃーん! もう、やっと来たの?
 オレ待ちくたびれちゃって、もう少し遅ければ百田ちゃんにいたずら電話するところだったよ!」
「出たな、元凶」

僕をここに呼び出した張本人を見る。
王馬くんは、いつもと違って何故か白のタキシードを着ていた。

(教会……タキシード……いや、まさか)

頭の中を過ぎった単語を心の平穏のためにも否定する。
さすがに……そういうのは、もう少し雰囲気がないとイヤだ。

「まったくさ、教会になんてことをしてるんだよ。
 こんな勝手なことして……神父さんたちはどうしたんだ?」
「神父さんたちなら、中で待機中だよ!
 あとは、最原ちゃんの用意ができたら式を開始するから――」
「待って、式って何の、って、うわっ」

言い返している最中に身体が浮いた。
抱えあげられる形になった僕は、思わず王馬くんにしがみつく。
これは、俗にいう『お姫様だっこ』というやつだ!

「ちょ、お、王馬くん。おろして……」
「ちゃんと最原ちゃんにぴったりのウェディングドレスも用意してあるからね!
 二人で幸せな家庭を築こうね!」
「待って、そういうのは、もっと厳かな雰囲気でやるものであって。
 そもそも、僕は、ドレスなんか着ない!!」
「白無垢と迷ったんだけど、ドレスの方がいいと思ってさ!
 あ、白無垢も着たかったら別撮りするよ!」
「聞いて!!」

地に足がついていない僕は、王馬くんに連行されるまま教会の中に入る。
きっと、数時間後には痛々しい僕の姿があるはずだ。

「くっ、王馬くんのバカっ!」

不本意な挙式の遂行に、僕はただただ悪態をつくしかなかった。



(作成日:2018.01.10)

< NOVELへ戻る

上弦の月