上弦の月

第27回 深夜の王最小説60分一本勝負 お題「初○○/○○初め」
キミと見た初めての太陽

プロペラの音で目が醒めた。
僕は目をしばたたかせて周りを確認する。

「……あれ?」

たぶん、ヘリコプターの中だ。
僕は自分の部屋で寝ていたはずだったのに、何故こんなところに?

寝る前のことを思い返す。
昨日は大晦日で、王馬くんと過ごしたあとは除夜の鐘が鳴り終わるのも待たずに寝てしまった。
だから、こんなことをするのは……。

「王馬くんっ!!」
「はーい、呼んだ?」

僕の呼び声に、王馬くんが奥の扉から姿を現す。
いつもと変わらない飄々とした態度に、少しだけイラッとする。

「びっくりするから勝手に移動させないで、って言ったでしょ!
 新年早々なにするの」
「ええー、でも、答えが分かってるサプライズはサプライズじゃないじゃん。
 最原ちゃんには、いつだってオレのとっておきをプレゼントしたいからね」
「うっ……」

僕のため、と言われれば強くは切り出せない。
今までもサプライズと称して、いろいろなプレゼントを貰ってきた。
今回もわざわざヘリコプターを使ってまで、何かしてくれるのかもしれない。

「今はだいたい長野県あたりなんだけど、……ああ、もうそろそろかな?」
「なにが?」
「それは見てのお楽しみってね!
 ほら、そこの窓から見えるから」
「ええっ?」

王馬くんの指示に従い、しぶしぶ窓に近寄る。
外は雲の絨毯がひろがっており、その白の中に赤い点が見えた。

(あ……)
「どう? きれいでしょ」

ヘリコプターが移動して角度が変わると地平線が赤く染まっているのも確認できた。
山影も見えるから、ここは富士山の近くなのだろう。

――初日の出。

僕は、あまりの綺麗さに言葉を失った。
太陽なんて直視できるものではないと思っていたのに、この赤々とした風景は何なのだろうか。
初めてみる日の出に僕は窓にはりついて見つめてしまった。

完全に太陽に心を奪われていた僕は、手の甲に感じた温度で意識を戻す。
重ねられた手を見やると、してやったりと笑うキミの顔が映った。

「そうそういい忘れていたけれど、あけましておめでとう。
 今年も一年よろしくね、最原ちゃん」
「……うん、僕の方こそ。
 あけましておめでとう、王馬くん」

(きっと今年もたくさんのサプライズが待っているだろうけれど、キミとならたぶん楽しいと思えるよ)

重ねられた手を、そっと握り返す。
太陽はもうそろそろ雲から完全に顔を出そうとしていた。



(作成日:2018.01.03)

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