第26回 深夜の王最小説60分一本勝負 お題「お風呂」
甘いニオイを洗い流して
明日は久しぶりの休日だった。
僕は疲弊した身体を引きずり、脱衣場に入る。
(今日はシャワーだけにしようかな)
今、お風呂に入ると眠ってしまいそうだった。
今日は何とか言い訳をして、ゆっくり寝てしまおう。
僕は服を脱ぎ捨てるとお風呂場に足を踏み入れた。
ざぱああああああ
「…………は?」
頭上から降ってきた液体を思いっきり被ってしまった。
どろっとしたその液体は甘いにおいを発し、少し黄みがかっている。
……どう見てもハチミツだった。
「……こんなことをするのは」
僕は無言で寝室の扉を開け放つ。
目的の人物は悠々とベッドの上でくつろいでいた。
「あ、最原ちゃん。
……って、あれ? お風呂にいったんじゃなかったの?」
「どう見たって、僕はお風呂に入った後の状態だよね?」
髪も洗い、やや身体も火照っているこの状態を見て、なぜお風呂にいっていないと言えるのか?
「だって、ハニーな蜜があったでしょ?
最原ちゃんのことだから、『王馬くん、僕、甘くなっちゃったみたいだ』って言いながら、ここに入ってくる…」
「どこの世界線の話をしているのかな?
少なくとも僕はそんなことを言わない」
王馬くんの放つ妄言をたたき斬る。
付き合いも短くないのに、どうすればそのような発想にいたることができるのか。
「まったく、食べ物を粗末にして何がしたいの」
「最原ちゃんとハチミツプレイがしたい」
「まさかの直球……って、うわっ!」
王馬くんに飛びつかれ、たたらを踏む。
軸足が不安定になった身体は、王馬くんに引き寄せられるままベッドに押し倒された。
「ちょっと!」
「最原ちゃん、明日は久しぶりのお休みでしょ?
そんな日なのに、めいっぱい楽しまないと損だって」
王馬くんはベッドのそばに置いていたらしい黄色い液体が入ったビンを持ち出した。
先ほどお風呂場で嗅いだニオイがすることから、どう考えてもハチミツだ。
それを見ただけで嫌な予感しかしない。
「オレ、あまーい最原ちゃんが食べたいかな?」
「僕は別に甘くならなくてもいいかな、って思うんだけど。
ま、待って、お風呂入った後なんだけど、うわっ」
僕の上でビンがさかさまになった。
せっかく洗ったというのに、身体は服ごとハチミツに染められていく。
(また、お風呂に入らないと……)
黄色く染められていく自身を見つめ、諦めてため息をついた。
(作成日:2017.12.28)