第21回 深夜の王最小説60分一本勝負 お題「いい夫婦(夫妻)の日」
病めるときも
(頭いたい)
熱で霞む目を押さえる。全身がだるくて関節が痛い。
急激に寒くなったせいだろうか、完全に風邪をひいてしまったみたいだ。
「最原ちゃん、オレそろそろ出るけど……最原ちゃん?」
出かけようとしていた王馬くんが僕の異変に気付いたのかベッドに近づいてきた。
顔を覗きこまれ頬に手を当てられる。
……王馬くんの手が冷たくて気持ちいい。
「あらら、最原ちゃん、風邪?」
「そう、かも」
離れていく手を目で追いかけ、熱に浮かされた頭で答える。
(あ……)
王馬くんの左手に嵌っている指輪が目に入った。
同棲を決めたときに二人で選んだペアリングだ。
あの時、リングをお互いの指に嵌めた時、僕は思ったのだ。
僕が王馬くんを支えていくんだって。
(出かけるって言ってたのに、僕のことで手を煩わせたくない)
「王馬くん、僕のことは気にしなくていいから。
今から出かけるんでしょう? 行ってらっしゃい」
「…………」
「王馬くん?」
王馬くんは無言でスマホを取り出すとどこかに連絡しはじめた。
「もしもし?オレオレ。
あのさ、今日の予定なんだけど、嫁が熱出しちゃったからちょっと延期しといてよ。
は? 紹介しろ? オレのだから簡単に紹介するわけないでしょ、じゃあね」
「あ……」
電話の向こう側はまだ何かを言っていたようだが、王馬くんは無情にも通話を切った。
もしかしなくても僕のせいで王馬くんに迷惑をかけてしまった?
「とりあえず氷と消化にやさしいものかな?」
「なんで」
「ん?」
「気にしなくていい、っていったのに」
スマホを放り出してこちらを覗き込んできた王馬くんに向かって、つい疑問が口をついた。
その内容が予想外だったのか王馬くんは目を瞬かせた。
「オレが最原ちゃんを放っておくわけないでしょ?」
「でも……」
「健やかなるときも病めるときも、オレは最原ちゃんを愛し、慈しんでるからね」
言葉とともに王馬くんは僕の左手をとり、薬指に嵌っている指輪に口付ける。
普段とは異なる気障な仕草に、邪気のない優しい表情に、風邪以外の熱がのぼってきそうだ。
いつもだったら茶化すくせに、こういう弱ってるときに優しいなんてずるい。
「もしかして不安でもあるの?
なんなら今から誓いのキスでもしようか?」
「……風邪、うつっちゃう」
近づいてきた顔に恥ずかしくなり、視線をさまよわせる。
熱のせいか頭がくらくらする。
「大丈夫、オレが風邪ひいたら今度は最原ちゃんが誠心誠意で看病してよ。
そうだな、ナース衣装とかいいんじゃない?」
「ばかじゃないの?」
降りてくる口付けに僕が拒む理由なんて何一つなかった。
僕だって、健やかなるときも病めるときも、キミを愛し、慈しむよ。
(作成日:2017.11.22)