第20回 深夜の王最小説60分一本勝負 お題「思い出」
思い出にはならない
初めて王馬くんと会ったのはよく分からない恋愛バラエティ番組だった。
最初は嘘ばかりつくキミに呆れもしたというのに、いつの間にか追いかけていて、気がつけば恋人になっていた。
そして、交際はそれなりに順調だったはずなのに、キミは……高校卒業を目前にして消えたのだ。
『最原ちゃん、ちょっとばたばたすることがあってさ。
しばらく会えなくなっちゃうんだ』
『しばらくってどれくらい?』
『ちょっと期間はわかんないけど、だいじょうぶ、そんなに時間はかかんないよ』
最後に二人で交わした会話を思い起こす。
そんなに時間はかからない、って言ったくせにあの時から今日で5年だ。
……本当にキミは嘘つきだ。
「もう待つのには疲れちゃったよ」
最後に王馬くんと会った場所に僕は立つ。
今日で最後にしようと思ったのだ。キミを待つのも……キミを想うのも……。
「これ、どうしようかな」
手に持った白い箱を眺める。王馬くんから貰ったものだ。
数少ない形に残るプレゼントだったから、持ち歩く癖がついてしまっていた。
『そうだ、最原ちゃん、これあげる』
『え、何この箱』
『オレに身も心も愛されたくなったときに開けてよ。
すごくいいことがあるからね!』
『……すごく不吉な予感しかしないよ』
「……開けてみようかな」
当時は、どうせ何かのイタズラだと思ってあけないままだったのだ。
どうせ最後なのだ。多少、悪いことが起こったって構いはしない。
もしかしたら、本当にいいことが起こるかもしれないし。
僕は白い箱に手をかけて……開けた。
『ばっびょーーーーんんん!!!』
「っ!」
『やっほー、最原ちゃん、驚いた? 驚いた?
いやー、どっきり大成功!』
箱の中から勢いよくバネ仕掛けのピエロが飛び出してきて、懐かしい声で喋る。
多少なりともいいことを期待していたのか、安直なびっくり箱に落胆を隠せない。
「やっぱりただのイタズラじゃないか!」
キミが言っていたいいことなんて全然起こらない。
やっぱり王馬くんは嘘つきだ。だいっきらい。
「だーれだ」
「うえっ」
いきなり目を隠されて間の抜けた声が出た。
びっくり箱に意識を持っていかれていたため、背後に人がいたことに気付かなかった。
しかも、この声は……。
「王馬、くん」
「ぴんぽーん、大正解! さすが、最原ちゃん」
腕を外されて後ろをゆっくりと振り返る。
目の前には少しだけ大人になった王馬くんがいた。
「なん、で」
「実はそのびっくり箱はGPSが搭載されてるんだよ。
最原ちゃんがぐちゃぐちゃにされたいと思ったときを見計らってオレが参上できるようにね!
どう? 驚いた?」
相変わらず本当か嘘かも分からないことを言う。
今日で諦めようと思っていたのに……だというのに。
「王馬くんのばか」
思い出から帰ってきたキミに悪態をつきながらそっと抱きついた。
(作成日:2017.11.16)