上弦の月

第202回 王最版深夜の一本勝負
お題「見立て」

 招待客が一人、二人と消えていく。館に伝わる詩と同じように、暖炉の上にある人形に見立てられた人が犠牲になっていく。
 十六体あった人形も、あと半分になっていた。

「……あの詩の通りなら、次に危険なのはキミだよね?」
「えー、そうなの? こわいなー」

 不安を一切滲ませず、市松模様のストールを巻いた少年は笑う。あまりの危機感のなさに、僕はため息を吐きそうになった。
 二人しかいないリビング。ほとんどの人は探索に余念がないのか、証拠のないリビングに寄りつく気配はない。
 何とは無しに、壁に刻まれた詩を眺める。新しい発見は特になかった。

(見立てのように行われているが、本当に詩に沿って事件は起こっているのか? 本当は別の動機があって、詩は目眩しじゃ…)

「ねー、最原ちゃん。オレ、犠牲になる前に最原ちゃんとデートしたいなー」
「…………はぁ?」
「この館って、コンセプトが資産家の豪邸だから庭すごいじゃん。東屋で二人だけで語り合うのも乙だと思わない?」
「キミ、何のためにここについてきたの?」
「最原ちゃんと遊びたいからに決まってんじゃん!」

 思わず額に手を当てた。
 事件の全容も見えてないのに、問題が増えるのは勘弁して欲しい。

「仕方ないなー。最原ちゃんのお手伝いを沢山して、オレが犠牲にならずに事件が解決したらデートしてくれる?」
「どうしてそういう話になるんだ?」
「え、オレが犠牲になってもいいの? オレまで死んじゃったら、オレを庇った百田ちゃんが浮かばれないよ!」
「勝手に百田くんを殺さないでくれ」

 百田くんは、今も元気に春川さんとともに調査を進めているはずだ。
 そもそもここはミステリーアトラクションだから、本物の死人は出ていない。

「オレが次に狙われるんでしょ? それなら、オレが一番証拠を掴めると思うんだよねー。今が書き入れ時だよ!」
「…………分かった。この事件が終わったら王馬くんに付き合うから、とりあえずキミの身の安全の確保と、証拠品の回収方法の検討を進めたい」
「安全の確保? にしし、最原ちゃんってば、オレの心配してくれるの?」
「生存者は多いほど、このゲームは有利だからね」
「そういうことにしといてあげるよ」

 いつもと変わらず笑う王馬くんから視線を外す。
 今は事件に集中しなきゃいけないのに、何だか心が落ち着かなかった。

(この事件が解決したら、……まるで死亡フラグじゃないか)

 ざわつく気持ちをおさえながら、僕は決意を新たに人形を睨みつけた。



(作成日:2020.12.13)

< NOVELへ戻る

上弦の月