第200回 王最版深夜の一本勝負
お題「記念本」
「ねえ、最原ちゃん。最原ちゃんとオレが付き合い始めてから一年経つじゃん」
「そ、そうだっけ」
本に目を落としながら、王馬くんの声に耳を傾ける。
僕の部屋で、いつものように二人っきりで過ごす時間。追いかけっこ以外に、こうやって平穏な時間を過ごすようになってから一年が経ったらしい。
(そ、そうか。一年……)
怒涛の告白劇が、つい昨日のことのような、はたまた数年前のことのようにも感じる。
思い出すと、途端に恥ずかしくなってきた。
「最原ちゃん」
王馬くんの頭が肩に乗っかってくる。近くなった距離に、顔が熱くなった。
これは、そういう流れなのだろうか? 僕は、ベッドを視界に入れながら、そっと本を閉じる。
王馬くんの手が、僕の耳に触れる。その指の感触に、心臓が嫌な音を立てる。
「だからさ、一年を祝して、オレと最原ちゃんのラブラブ記念本を作ろうと思うんだけど、いいよね?」
「うん、……………………は?」
甘い空気が途端に霧散する。王馬くんは何を言ってるんだ?
「最原ちゃんなら、そう言ってくれると思ってたよ! あ、記念本ってのは、オレたちのメモリアル的なもので、写真集にしようと思うんだけどー」
「ちょ、ちょっと」
僕の隣に腰をおろした王馬くんは、机の上に写真を並べていく。
本を読んでいる僕、依頼を受けている僕、そして、明らかに事後っぽいベッドにいる僕の写真まであった。
「な、な、なっ!」
「いやー、よく撮れてるでしょ? このキス待ち顔最原ちゃんとかレアだし良いよね!」
「良くないし、それに、王馬くんの写真がないじゃないか」
「へ?」
「え? いや、そもそも記念本出さないで、って、うわっ!」
「にしし、確かにツーショット撮ったことないよね! はい、チーズ」
「ちょ、ちょっと!」
肩を抱かれた瞬間、スマホが光った。
目の前にあるスマホの中に、いい笑顔の王馬くんと戸惑い顔を浮かべる僕が写っている。
「最原ちゃん、もっといい顔してよ! ほら、こっち向いて!」
「な、何!?」
「ね、目閉じて」
王馬くんの瞳が僕を真っ直ぐ見つめている。その視線に耐えられなくて、王馬くんに請われるまま、目を閉じた。
唇に慣れた吐息を感じる。
皮膚が重なる瞬間、かすかに、写真を撮る音が聞こえた気がした。
(作成日:2020.11.29)