第199回 王最版深夜の一本勝負
お題「ワンシーン」
『好きだよ、最原ちゃん』
頭の中を、あるワンシーンが何回も駆け巡る。とある嘘吐きが、とんでもないことを告げた瞬間の映像だ。
ふざけた表情は鳴りを潜め、ただまっすぐに僕を見る。
このとき、自分がどう返したのか、そもそも何でそのような会話になったのか、まるで覚えていない。
ただ、一つの言葉だけが鮮烈に残っている。
(…………夢、だったのかな)
見慣れた自室の天井を見上げながら、ぼんやり考える。
あのシーンから、それなりに日にちが経っているのに、僕の生活はいたって変わるところはない。今日だって、いつものように自分の部屋で目覚めている。
(同じ場面しか思い出せないし、あれは、本当の出来事ではないのかもしれない)
王馬くんの嘘に振り回されているせいで、幻覚が見えるようになったの? これはよくない傾向だ。
気分を変えようと、ベッドの上で身体を起こす。眠い。
ガタッ。
「ん?」
窓が不自然な音を立てた。音の方を見るとカーテンに人影が映っている。……ベランダに、誰かいる?
おそるおそる近づき、ゆっくりとカーテンを開く。外向きに跳ねた髪、市松模様のストール、僕より小さな背中。先ほどまで思い浮かべていた人物が、そこに立っていた。
「王馬くん、何して、うわっ」
窓を開けた瞬間、視界が赤で埋められた。
「なっ、なに!?」
「何、って、最原ちゃんが言ったんじゃん。誠意は行動で示せ、って」
ちゃんと百八本あるからね、と王馬くんは僕に薔薇の花束を押し付けてくる。
訳がわからず、とりあえず薔薇を受け取る。思っていたよりも、ずっしりと重い。
「好きだよ、最原ちゃん。これで、答え、くれるよね?」
「うっ、僕は……」
考えがまとまらず、ただ、目の前の王馬くんを見つめる。
朝日を浴びた王馬くんは、繰り返し見た映像よりも鮮やかで、まるで映画のワンシーンのようだった。
(どうしたらいい?)
重みを訴える薔薇を見る。王馬くんが、僕のために用意した花。
目を瞑ると、むせ返るような濃い香りとともに、王馬くんが愛を告げる映像がチラつく。
(同じシーン見続けてる時点で、答えは出てたのかもしれないな)
伏せていた目を、まっすぐ上げる。
そして、僕は、覚悟を決めて口を開いた。
(作成日:2020.11.22)