上弦の月

第195回 王最版深夜の一本勝負
お題「遊園地」

 推理通りにミラーハウスを抜けると、ライトの光が目をさした。
 人もおらず、あたりはすっかり暗闇に落ちているというのに、遊具たちは疲れも知らず動き続けている。

(どこにいる?)

 眩む目を細めながら、あたりを確認する。あの白い影は見当たらない。
 とある怪盗を追いかけて辿り着いた、数ヶ月前に営業が終了した遊園地。まるで、僕が来ることを予測していたように、遊具たちは次々と動き出していた。メリーゴーラウンド、観覧車、ジェットコースター。
 そこで視点が止まった。ジェットコースターの線路の上に誰かが立っている。

「誰?」
「やっほー、最原ちゃん! ようこそ、DICEアミューズメントパークへ!」

 線路上に、今まさに追いかけている怪盗が、黒いマントを翻しながら立っていた。

「DICE!」
「にしし、いい返事だね。そういうの好きだよ。
 そうだ、ねえ、探偵さん、ゲームをしようよ。三十分以内にオレを捕まえることができたなら、探偵さんが知りたいこと何でも答えてあげるよ! じゃあ、ゲームスタート!」

 DICEの掛け声とともに、ジェットコースターの電気が切れた。

「え、ちょっと!」

 一方的なゲーム開始に、慌ててジェットコースターの方へ駆ける。数秒走ったところで、足を止めた。
 ライトアップが消えたジェットコースターは闇と同化している。あのDICEが目立たないところで待ち伏せしているとは思えない。

(僕が追いつくことができて、それなりに目立つ遊具……メリーゴーラウンド?)

 他にも該当しそうな遊具はありそうだが、ひとまずメリーゴーラウンドに近づいた。
 電気がついた何の変哲もないメリーゴーラウンド。もし、DICEが来るなら、どこからだろう?
 思案していると、メリーゴーラウンドからいきなりBGMが流れてきた。音楽とともに、馬が動き出す。
 呆然とその様を眺めていると、馬の一つにDICEが乗っていた。

「だ、DICE!」
「やっほー、探偵さん! どう、元気?」
「そんなこと言う必要ないだろ!」

 見失わないように、メリーゴーラウンドの速度に合わせて歩く。勝負はメリーゴーラウンドが止まった時だ。

(たぶん、あと一周)

「あはっ、探偵ちゃんは待ち作戦なのかな? それはちょっと甘いんじゃない」
「何が、っ」

 メリーゴーラウンドが、まだ動いている最中にも関わらず、DICEは馬から飛び降りた。そのまま、僕の目の前まで来る。

「そんな受け身な姿勢だと、オレのこと捕まえられないよ! もっと頑張ってよ、探偵さん」

 そう言って、DICEは僕の頬に口付けた。

「……………………えっ?」
「にしし、じゃあ、次のアトラクションへ行こうか!」

 DICEが、僕の目の前を悠々と通っていく。
 熱くなった頬をおさえるのに必死で、捕まえるチャンスだったというのに気付いたのは影が小さくなってからだった。

「っ、くそっ、DICE、絶対捕まえてやるんだからな」

 逸る鼓動をおさえて、DICEの他の出没場所へ向かうべく、僕は走り出した。



(作成日:2020.10.25)

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