第193回 王最版深夜の一本勝負
お題「おねだり」
「楽しかったね、最原ちゃん」
「うん、そうだね」
公園の東屋から、王馬くんと並んで落ちていく太陽を眺める。こうやって、一日中二人で過ごすのは久しぶりだった。
二人とも超高校級だから元々忙しくはあったけれど、某恋愛バラエティのせいでさらに有名になり、休みなんて殆どない状態だった。
だから、ただ、二人でご飯を食べて、映画を見て、ちょっとした買い物をして、こうやって綺麗な風景を眺める。こんな穏やかな時間が、とても新鮮だった。
「最原ちゃん、オレ、お願いがあるんだけど」
「なに?」
王馬くんが、僕の腕に腕を絡ませてくる。
「オレ、最原ちゃんと一緒に行きたいところがあるんだよねー。ダメ?」
「ダメ、じゃないよ」
僕の身体に擦り寄ってくる小柄な身体に、つい頬が緩む。
何だか、王馬くんが可愛く見えた。いつもなら癇に障る猫なで声も、全然気にならない。
普通に楽しくて、普通にドキドキして、普通のデートだったから、僕は浮かれていたのかもしれない。
だから、王馬くんに引っ張られて迷い込んだ場所の違和感に気づくのが遅れてしまったのだ。
(あ、れ……?)
目だけを動かしてあたりを見る。客引きをするキワドイ衣装の女性。連れ立って歩く距離の近すぎるカップル。どう見ても、夜の街といえる場所だった。
嫌な汗が頬を伝う。気のせいであってほしい。
「最原ちゃん、ここだよ」
「……っ」
王馬くんがさした場所を見上げる。
パッと見は、普通のホテルだった。でも、僕は、紅鮭団のときに同じような建物を見たことがあった。
(ラブ、アパート)
つまり、カップルが一夜を共にする場所。
「あ、あの、王馬くん。こういうのは僕たちには早」
「ずーっと、最原ちゃんと来たいと思ってたんだよねー」
先ほど聞いた猫なで声と同じトーンで、そんなことをのたまう。
おそるおそる王馬くんの顔を見る。とても、いい笑顔だった。だけど、その三日月に歪む口は、悪さを企む総統の顔にしか見えない。
「“ダメ、じゃない”って言ったのは、最原ちゃんだよね?」
「う、ううっ」
王馬くんの腕は、いつの間にか僕の腰に回っていた。逃がしてくれる気はなさそうだった。
「にしし、朝まで一緒にいようね、最原ちゃん」
「……お手柔らかにお願いします」
頬が熱くなる。僕はこれからどうなるんだろう。
逸る心臓を抱えながら、王馬くんと共に建物の中に足を踏み入れた。
(作成日:2020.10.11)