上弦の月

第190回 王最版深夜の一本勝負
お題「扉」

 目が覚めたら、目の前に扉があった。
 あたりを見渡す。窓がない小さな部屋。部屋の三分の一を占めるベッド。床に落ちている王馬くん。

「…………出よう」

 僕は、取っ手をひねると扉を押した。……動かない。
 扉を引いてみる。……やはり、動かなかった。

「くっ、だめか」
「最原ちゃんっ!」
「うわっ、痛っ」

 腰にぶつかってきたものを支えきれず、目の前の扉に頭をぶつけた。
 扉はやはりびくともしない。

(鍵のようなものは見えないのにな)

 いったい、この扉はどのようにして施錠されてるのだろう? カードキーのようなものも見当たらないし、閂タイプというわけでもない。
 扉の開け方を模索しはじめようとしたが、背中にグリグリとひっついてくる者のせいで集中力が切れた。

「……王馬くん、この扉の開け方分かる?」
「床に倒れてたオレに『大丈夫?』の一声もかけない薄情な最原ちゃんに答えると思ってるの? ここはアレじゃない? ××しないと出られない部屋」
「答えてるじゃないか。××しないと出られない部屋?」

 身体をひねって後ろにいる王馬くんを見る。
 楽しそうに笑う彼を見ると、イヤな予感しかしない。

「そうそう、ミッションをクリアしないとずっと閉じ込められちゃうっていうエンターテイメント性の高い部屋のことだよ。こういうのモノクマ好きそうだよねー」
「モノクマの仕業……確かに可能性はゼロじゃないけど。でも、王馬くんの言う部屋なら、お題のようなものがあるんだよね? どこにも見あたらないけど」
「それはきちんと探してないからだって! ま、なくても問題ないよね。これみよがしにベッドがあるし、どういうことが望まれているか、ってのは最原ちゃんでも分かるんじゃない?」
「えっ」

 この部屋には、確かにベッドしかない。でも、そういうことにはならないんじゃないか?
 僕は、思わず、唾を飲み込む。

「ほら、最原ちゃん」

 王馬くんの手が、僕の頬に触れた。
 肩にも手を置かれ、自然と前屈みになる。

「お、王馬くん」

 王馬くんの息が、顔にかかった。足が、震える。
 真っ直ぐ立っていられなくて、僕は咄嗟に近くにあった取っ手を掴んだ。体重が取っ手に乗り、扉が、ーー横にスライドして開いた。

「…………王馬くん?」
「~♪」

 口笛を吹いて誤魔化そうとしたって無駄だ。扉の向こう側では、DICEの方々が控えているのが見える。どう考えても元凶は王馬くんだ。
 僕は、逃げられないように王馬くんのストールをしっかりと握る。

「どういうことか、ちゃんと説明してもらうから」
「にしし、知りたかったら推理してみてよ、探偵さん」

 不敵に笑う王馬くんを見つめる。きっと、王馬くんからは有効な情報は得られないだろう。
 だけど、情報源は王馬くんだけじゃない。目の前にいるDICEの人たちを見る。

(扉の先には真実がある、ってことかな)

 僕は、王馬くんに負けないように、笑みを浮かべた。



(作成日:2020.09.20)

< NOVELへ戻る

上弦の月