第18回 深夜の王最小説60分一本勝負 お題「手」
しあわせ
「うーん」
「えっと、王馬くん?」
かれこれ数分、王馬くんは僕の掌に掌を重ねてうなっている。
王馬くんが動かないので勝手に腕をおろすわけにもいかず、僕は途方にくれていた。
「……最原ちゃんの方が手が大きいなんてズルくない?」
「ようやく喋ったと思えば分かりきったことを」
「分かりきってないよ!」
勢いよく僕の手を握ると王馬くんは椅子に足を乗せこちらに身を乗り出してきた。
急激な顔の接近に思わず軽く背を反らす。
「オレは毎日成長してるんだよ!
そのうち最原ちゃんを包み込むぐらい大きくなるんだからね!
これは決定事項なんだよ」
「え、無理でしょ」
「は?」
「あ」
王馬くんが真顔になったことで地雷を踏んだことに気付いた……が、言葉に出てしまっている時点で時既に遅し。
握りこまれていた手にかなりの力が加えられる。
「そういえばさー、手と手をあわせると、皺と皺が合わさるからしあわせなんだって。
最原ちゃんは今しあわせ?
オレはとーってもしあわせだよ?」
王馬くんは皺と皺をあわせるために、僕の握りこぶしを解いて指を絡めてきた。
指で防いでいた圧迫が掌に直で伝わってくる。
「痛、王馬くん、痛い、痛いよ!」
「えー、最原ちゃんひどいな。オレはこんなに愛しさであふれた繋ぎ方してるのに。
ほら、見てよ、どこからどう見ても恋人つなぎでしょ!」
「恋人つなぎはこんなに力込めないでしょう!?
これは、レスリングなんかの押し合いのときの繋ぎ方だよ!」
さすがに痛いので押し返そうとするが、僕の力では王馬くんにはかなわない。
それが分かったのか、王馬くんは上機嫌で力を緩めてくれた。
「だよねだよね。最原ちゃんじゃオレに力で勝てないよね、にしし」
「くっ……もういいでしょう、離してよ」
繋がれたままの手を引っ張るが、王馬くんは離してくれない。
それどころか親指で僕の人差し指を撫でてくる暴挙にまで出た。
「ちょ、あの、王馬くん」
「んー?」
僕の指をなぞる動きは止まることを見せず、まるで感触を楽しむかのように動く。
その指の動きが何だか恥ずかしく感じて目線が定まらない。
「最原ちゃんさ、嫌なら抵抗すればいいじゃない」
「え?」
「だって、オレ、今はそんなに力入れてないよ?」
ぎゅっ、と軽く握られる。
それは先ほどのレスリングみたいな力の入れ方とは全然違っていた。
「オレは、最原ちゃんの手に手を合わせられて幸せだよ。
最原ちゃんは?」
「僕、は……」
掌に王馬くんの熱を感じる。
この手に感じるぬくもりは、もしかしたら幸せなのかもしれない。
(作成日:2017.11.02)