上弦の月

第189回 王最版深夜の一本勝負
お題「プラネタリウム」

「最原ちゃん、こっちだよ!」
「え?」

 王馬くんが指差した場所を凝視する。
 円形のベッドとソファの中間のようなものに枕が二つ。

(こ、ここって、プラネタリウムじゃなかったっけ?)

 勢いよくあたりを見渡す。まだ投影されていないドーム。
 円形ソファの後ろには、映画館のように普通の座席もある。ソファ以外は、想像通りのプラネタリウムだ。

(……もしかして、これは、カップルシート、か?)

 油断した。すべてのプランを王馬くんに任せたことは、やっぱり間違いだった。
 お昼の待ち合わせから夕方の今にいたるまで、ギリギリ友人といえる距離感を保っていたから警戒が緩んでいたかもしれない。

「最原ちゃん、そんなところにつったってたら邪魔だよ。早く横になったら?」
「わ、わかってるよ」

 王馬くんがシートに寝転がりながら告げてくる。
 今から逃げることはできない。僕は覚悟を決めて、ペアシートに腰を下ろした。腰に心地よい弾力を感じる。

(あ、結構寝心地良さそう)

『まもなく上映が始まります』

 アナウンスとともに周りから明かりが消えていく。僕は慌てて身体をシートに預けた。
 その時、王馬くんの肩に肩が当たった。

(ち、近い)

 肩に微かな熱を感じながら、偽物の空を見上げる。
 数多の星が光っては消える。ゆっくりと、だけど現実ではありえない速さで星が動いていく。
 その星たちに負けないスピードで、心臓が鼓動を打っていた。

『冬の夜空に見えるのは、おうし座とふたご座――』

 手が、触れた。
 王馬くんの手が、僕の存在を確かめるように甲をなぞると、そのまま指を絡めてきた。
 横目で王馬くんを見る。王馬くんは何でもない顔で、まっすぐ空を見上げていた。

(カップルシートで恋人つなぎ、なんて)

 何だかとてもズルい気がする。
 悔しくなって、力を込めて握り返した。すると、対抗するように力を込められる。

(負けない)

 僕は星を睨みつけながら、手にさらに力を込める。
 隣から微かな笑い声が聞こえた気がした。



(作成日:2020.09.13)

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