第187回 王最版深夜の一本勝負
お題「似顔絵」
「最原ちゃん! オレのために指名手配犯を捕まえて!」
「え? うわっ!」
投げつけられた紙が顔に張り付く。
落ちる前に紙を持つと、WANTEDという大きな文字が目に入った。
「その大罪人をオレの部屋に連行したいんだよね。最原ちゃん、オレのために頑張ってよ!」
「大罪人って……」
仕方なく指名手配書を眺める。罪状も何も書いておらず、WANTEDという文字の下にイラストが載っているだけ。
イラストは、王馬くんが描いた似顔絵なのだろう。デフォルメがキツくて、誰だか判別ができない。
(誰だろう、これ)
特徴的なのは下まつげ、黒髪、頭から出ている毛、だろうか。
(下まつげが長いなら十神くんだろうけれど、黒髪じゃない。
頭から出ている毛なら赤松さん、苗木くん、日向くんあたりだけど、やはり黒髪じゃない)
軽く記憶を漁るが、該当する人物が分からない。もしかしたら、学園の生徒ではないのか?
「王馬くん、ちなみにこの指名手配犯の罪状は何なの?」
「オレの心をいっぱいにしちゃった罪かな」
「……そう」
聞いた僕がバカだった。
王馬くんの興味をひいたから、自分のテリトリーに囲い込みたい、という話か。
(こんな回りくどいことせずに、直接本人に言えばいいのに)
わざわざ僕を間に挟む必要はないじゃないか。こんなことして、僕がどう想うか、分かってやってるのか?
紙にいるデフォルメされた下まつげくんを見る。ペンで描かれただけの黒い目も僕を見ている。キミは、いったい、誰なんだ?
「で、最原ちゃん、返事は?」
「…………返事?」
王馬くんの言っている意味が分からず、首をかしげる。
「……あはっ、探偵さんには指名手配犯を探し出すのは難しかったかな。じゃあ、オレが現行犯逮捕するね!」
「現行犯逮捕? いったい、何を、って、うわっ!?」
どこからか出てきた玩具の手錠が僕の腕にはまった。
はずそうとするが、意外と頑丈で、プラスティックのこすれあう音が響く。
「というわけで、オレの心をいっぱいにしちゃった罪で最原終一を逮捕します! 連行場所は、オレの部屋ね」
「い、意味が分からないんだけど!」
指名手配書が床に落ちていく。下まつげが特徴的な似顔絵と目が合った。
「僕、あんなに下まつげ出てないから!!」
「探偵さん、もっと客観的に物事を見た方がいいよ。では、しゅっぱーつ!」
王馬くんに寄宿舎の方に引っ張られる。
引きずられゆく僕の抗議の声が、放課後の廊下に響き渡った。
(作成日:2020.08.30)