第181回 王最版深夜の一本勝負
お題「水分補給」
汗があごを伝っていく。
炎天下から涼しい部屋に移動したことにより、さらに汗が噴き出している気がする。
「暑い」
「そりゃ、そんな黒い帽子かぶってたら熱持つんじゃない? 最原ちゃんってば、理科の実験でやらなかった? 白い布より黒い布の方が温度上がるヤツ」
「それは知ってるけど」
王馬くんが部屋に入っていく。僕も追いかけるように足を踏み入れた。
以前、訪ねたときとあまり変わり映えしない部屋。王馬くんの、プライベートエリアのひとつ……らしい。
(相変わらず生活感が薄いな)
白い部屋に黒い家具。
その家具も必要最低限だけのように見える。
「最原ちゃん、喉渇いてるでしょ?」
王馬くんがタンブラーを渡してくる。
断る必要もないので、素直に受け取った。
「コップは?」
「出すの面倒だから、直でいいよ」
「直で……」
タンブラーを眺める。
おそらく、王馬くんが普段使いしているもののはずだ。
(……王馬くんは、これに口をつけてたりするのかな?)
唾を飲み込む。
涼しい部屋にいるのに、何だかさっきよりも暑い気がする。
(別に男同士だし、回し飲みくらい普通にする。気にする方がおかしい。よ、よし!)
僕は、意を決してタンブラーに口づけた。
一気に喉に流し込もうとして、予想していなかった刺激にむせる。
「げほっ、ごほっ、こ、これ」
「あらら、最原ちゃんってば、何やってるの」
口から鼻にラムネの香りが抜けていく。タンブラーに炭酸飲料、だと!?
飲み込みきれなかった液体が、服にシミを作る。どうしようか考える暇もなく、王馬くんの手が僕の服を掴んだ。
「ちょ、ちょっと、何!?」
「服は水分補給する必要ないから、脱いだ方がいいと思っただけだけど? 男同士なんだし、そんなに焦んなくていいじゃん」
「そ、それはそうだけど」
王馬くんの手がボタンを外していく。僕はそれを見ていられなくて、ギュッと目を瞑った。
暗闇の中、衣擦れや吐息に混じって、シャッター音が聞こえた気がした。
(作成日:2020.07.19)