第180回 王最版深夜の一本勝負
お題「雨宿り」
「いやー、今日も晴天なり。あの青い空のように、気持ちも晴れ渡るねー」
「太陽見えないし、今日は雨が降るって天気予報で言ってたけど」
学園からの帰り道。今日は何故か王馬くんと一緒に帰っていた。なぜ、一緒に帰ることになったのか、……実のところよく分からない。
ため息を吐きながら、空を見上げる。今の気持ちのように、どんよりとした雲が見える。
王馬くんの話を聞き流しながら、空を見ていると、頬に何かが当たった。触ると手に水がつく。
(雨?)
水滴は、じょじょに量が増えていく。
「うわっ、降ってきちゃったね。最原ちゃん、こっち」
「え!? ちょ、ちょっと待って」
いきなり走り出した王馬くんを追いかける。
王馬くんは近くの公園に入ると、タコ型の滑り台に潜り込んだ。僕も後を追って入る。
「急に降ってくるなんてツイてないね! 最原ちゃん、今日の運勢悪かった?」
「何言ってるんだよ。普通に天気予報通りじゃないか」
雨のせいで、少し張り付いた服が気持ち悪い。
滴り落ちるほどではないからどうしようなくて、その場に座る。王馬くんも、僕の隣に座った。
「ねー、最原ちゃん。雨に濡れたからちょっと寒いねー。最原ちゃんの柔肌で暖めて」
「何言ってるんだよ」
伸びてきた手をはたき落とす。
王馬くんも別に本気ではなかったようで、素直に手を引っ込めてくれた。
(まったく、心臓に悪い)
跳ね上がりそうな心臓を抑えるように、鞄を抱きしめる。
中に入っている、折りたたみ傘が軋んだ。
(昨日までどっかで活動してて、今日いきなり帰ってきて、急にからかってきて……本当に勝手だ)
王馬くんの様子を盗み見る。少し湿っているせいか、髪がいつもより大人しい。服は、濡れた跡がシミのように見えるだけで、透けてはいなかった。
性的な部分はないに等しい。だというのに、熱があがっている気がする。
(もう少しだけ……)
二人だけの空間に、雨の音だけが響く。
せめて、雨が小雨に変わるまでは、このままでーー。
(作成日:2020.07.12)