第172回 王最版深夜の一本勝負
お題「墓穴」
「最原ちゃん、おっはよー!」
「うわっ」
背後から、いきなり尻がもまれる。勢いつけて振り返ると、予想通り王馬くんがそこにいた。
ここ数週間、何故か王馬くんは毎日毎日、僕の尻を揉んでいく。最初は、驚きもしたが、さすがに最近は慣れてきていた。それでも、この行為自体は許されるものじゃない。
(今日こそ、ビシッと言ってやる!)
王馬くんに真正面から向き直る。
深く息を吸い込むと、とぼけた顔に向かって言葉を吐き出した。
「毎日毎日、キミは自分が何をしているか分かってるのか?
こんな朝の学園内で、その、……こういうことをしちゃダメなんだ。他の人に同じことしたら、こんな程度じゃすまないんだからな!」
言い切った。言いたいことを、すべて言えた。これで少しは反省してくれたらいい。
何だか清々しい気分で前を見ると、そこには自分が想像していたものとは違う表情を浮かべる王馬くんがいた。反省、ではない。何だかとてつもなくニヤニヤしている。
「……王馬くん?」
「へー、最原ちゃんなら、変わらず尻揉んでもこの程度ですませてくれるんだー」
「え?」
「それに問題にしてるのって、場所だけだよね。にしし、わかったよ。今度はちゃーんと、TPO選ぶね?」
自分の発言を思い返してみる。
確かに場所だけが問題だと取れなくもなかった。
「あ、ち、違う。僕にももちろんしてはダメだといいたくて」
「にしし、じゃあね、最原ちゃん。明日の朝楽しみにしててね!」
「あっ」
王馬くんは、スキップでもするように足取り軽く去っていく。残された僕は、顔を青くするやら赤くするやら、落ち着かない気持ちでいっぱいだった。
(……明日、どうなるんだろう)
まだ見ぬ未来を憂えて、僕は深くため息をついた。
……バリケード、作っておこうかな。
(作成日:2020.05.17)