第16回 深夜の王最小説60分一本勝負 お題「ご飯」
今日の晩ご飯
「最原ちゃん、おかえり!ご飯にする?お風呂にする?
オレ的には最原ちゃんを――」
開いた扉を閉めた。
扉の取っ手を握り締めながら、しばしその場で思案する。
見覚えのあるようなないような紫色が僕の部屋にいたような気がしたが、……うん、きっと気のせいだ。
(……よし、今日はオールでもしようかな)
考えた結果、踵を返して僕はその場を離れようとした。
『ちょっと、最原ちゃーん!何で扉閉めたの?!
ここにいるの最原ちゃんの愛しの恋人でしょ!!
オレ、そんな、ひどいことされると泣いちゃ……ウェアアアンヴヤェャゥィゥ』
部屋の中から響いてくる声に足を止めざるを得なかった。
ご近所迷惑すぎる!
「ああ、もう、分かったから泣かないで!」
閉めた扉を再度開きなおして部屋に入る。
中では泣きやんだ王馬くんがジト目で出迎えてくれた。
「……恋人の顔を見て扉を閉めるとはいい根性してるよね?」
「……えっと、条件反射というか」
「どういう条件反射だよ!」
「……いや、キミが持っている刺身に嫌な予感を覚えてさ」
王馬くんは刺身が乗った皿を持っていた。
理由はよく分からないが、僕の第六感がそれが嫌なことだと訴えてきている。
「ふーん、でも、その予感ははずれじゃないかな?
この刺身は今日の夕食だよ?」
「あ、そうなんだ」
ただの取り越し苦労だと分かり、安堵の息を吐く。
「そうそう、ちょっと最原ちゃんの上に乗っける予定の」
「待って!」
「え、なに?」
聞き捨てならない台詞に思わずストップをかける。
王馬くんは何故言葉を遮られたか分からないという風に首をかしげる。
「あのさ、“僕の上に乗っける”……ってなに?」
「そのままの意味だよ。今日の夕食のメインは最原ちゃん盛り!
恥じらう最原ちゃんの素肌に一枚一枚新鮮なお魚を乗せていくんだよ!」
「それ、衛生面最悪じゃないか」
「……オレが言いだしっぺだけどさ、ツッコミそこじゃないよね?」
王馬くんは呆れたようにいうと刺身をテーブルの上に置いた。
呆れられたことに僕は少々不満を感じたが、反論すると長引くので口をつぐむ。
「冗談はそのくらいにして夕飯食べようか」
「あ、普通に食べるんだ」
「なに?最原ちゃん、本当に盛ってほしかったの?」
王馬くんがにやりと笑う。
下手に迎え撃つと本当に剥かれかねないので、僕はそ知らぬふりで目線を外した。
「そんなに期待してるなら、ご飯終わった後を楽しみにしててよ」
「別にそんなんじゃ」
「いっただきまーす」
わざとこちらを見ながら王馬くんはご飯を食べ始める。
僕はそのせいで少し見える彼の舌を目で追ってしまい、不覚にも少し動揺した。
(ご飯が終わった後…………くそっ、絶対思い通りになんかなってやらないからな)
僕も夕食を食べるために手を合わせた。
(作成日:2017.10.18)