第167回 王最版深夜の一本勝負
お題「生放送」
(絶対見て、って言われたから開いてみたけれど……)
放課後に王馬くんから渡されたURL。
何があるかも分からずに開いてみたら、とある動画配信サービスのページへと飛んだ。ページの見出し部分には、デカデカと『DICEチャンネル』と書かれている。
(なんだよ、DICEチャンネルって)
チャンネル、とは、確かこの動画配信サービスのコミュニティの名称だったはずだ。要するに王馬くんは秘密結社のコミュニティを、この動画配信サービスで作っているということだ。
軽くチャンネルのページを読んでみると、どうやら三分後に生放送が始まるらしい。僕は、ひとまず生放送用ページに入ってみた。画面には、白と黒の市松模様の静止画が映し出されている。
(生放送って、一体どんな内容を配信するんだ?)
コンテンツ内容を確認しようと、視線をさ迷わせていると、いきなり静止画から動画に切り替わった。
「あ」
どうやら、生放送が始まってしまったらしい。
仕方なく放送の方に注目する。画面の中では、ピエロの仮面をつけた三人の人が映っていた。ツインテールの女の子に、髪が長めの男性、そして中央に王馬くんだ。
『はいはーい、みんなー、月一回のDICEチャンネル公式生放送の時間だよー』
『今日は話題てんこ盛りですので、雑談はカット。飛ばしていきます。本日のテーマはこちら。「今月のDICE」「DICE事件簿」「DICE犯行予告」、そして特別企画。「DICE総統のお宝写真公開」』
「お宝写真?」
王馬くんのお宝写真と聞いて、興味が湧いた。
王馬くんが写真を撮っているところは、あまり見たことがない。一体、どんな写真が出てくるのだろう。
『へー、どんなお宝写真なんですか?』
『オレと超高校級の探偵の最原ちゃんが仲良くしてる写真だよ』
「うん?」
自分の名前が出てきて、思考が止まった。
王馬くんと僕の写真、って何だ?
『へー、どんなのなんですかー』
『今、ここにあるんだよね。ほら、これ』
『ええー、総統これ出しちゃうんですかー? ヤバくないです?』
『これ、R的な何かにひっかりませんー?』
(“R的な何か”って何!?)
僕と王馬くんの間には、R的な出来事は発生していない。
ならば、王馬くんの嘘か? そんな嘘をついて何か得があるのか? いや、そもそも、王馬くん以外の人が言ってるんだし、本物?
『最原ちゃんにとっては、ちょっと恥ずかしい内容かもしれないね。
というわけで、最原ちゃんへ告ぐ。時間内にこの生放送の部屋にたどり着いたら、写真公開はやめてあげるよ。タイムリミットは今から三十分ね。はい、スタート』
「は?」
いきなりの名指しに、混乱が増す。
僕がそんなチャレンジをするほど、恥ずかしい写真なのだろうか? 身に覚えはないけれど、僕の知らないところで撮った写真なのかもしれない。
分からない。どれが王馬くんの嘘で、どれが本物だ?
(……迷っている時間はない。
そうだ、たとえ、嘘だったとしても、写真は回収しておいた方がいいだろう)
方針を固めると、ゆっくりと深呼吸をする。少し落ち着きを取り戻すと、メモ帳とペンを持った。三十分だ。時間がない。
僕は、生放送の場所を突き止めるべく、画面にかじりついた。
最原終一は知らない。
生放送中に彼が駆けつけたことにより、視聴者の間では、二人の間にR的な何かがあったのが確定事項になりつつあることを。
(作成日:2020.04.12)