第166回 王最版深夜の一本勝負
お題「昼寝」
おにぎりが入ったコンビニ袋が揺れる。その軽い音を聴きながら、重い息を吐いた。心身ともに疲れ果てていた。
いつもの自室の扉も重く感じる。
(まさか、依頼人が、あんなに喋るなんて……)
夜間の張り込みからの、朝方の依頼人のマシンガントーク。数分で終わると思っていた報告が、三時間になった時は、顔から表情が消えていたと思う。
とにかく疲れた。さっさと昼ごはんを済ませて、眠ってしまいたい。
ひとまず着替えをしようと寝室に入る。すると、ベッドが変に膨らんでいるのが目に入った。
「え?」
ゆっくりと近づいてみる。
ある程度の距離になると、僕のベッドで寝息を立てている人物が判別できた。
(王馬くんか)
見知った人物だと判明して、無意識に止めていた息を吐く。
王馬くんのことだから、ここへはいつものようにピッキングで入ったんだろうと予想がついた。ただ、寝ているのは予想外だ。
王馬くんの顔を覗き込む。
(寝顔、久しぶりに見たな)
一緒に布団に入っても、僕の方が早く眠るし、遅く起きてしまう。こんな無防備な王馬くんは珍しい。
試しに、王馬くんの髪に触れてみる。癖はあるけど柔らかい。
次に、王馬くんの手を広げて、自分の掌と合わせてみた。手は僕の方が大きい。
(だけど、意外としっかりしてるんだよな)
少し節くれだった指に触る。
指だけで見ると、ただ細いだけの僕より男らしいかもしれない。
(王馬くんって、意外と筋肉質だし……っ!)
余計なものまで思い出して、顔に熱が集まってきた。
このままじゃいけない。
「……ご飯、食べるか」
逃げるように、ベッドから身体を起こそうとした。
が、腕が首に絡み付いてきた。
「ちょっ」
「最原ちゃん、つーかまーえた」
コンビニ袋が床に落ちた。
「お、おお、王馬くん!」
「おはよう、最原ちゃん。夜からスタンバってたのに、全然帰ってこないからさー。オレ、もう、待ちくたびれちゃったよ」
「来るなら前もって連絡入れて、って、ちょっと」
王馬くんの手が衣服の下に侵入してきていた。
このままでは、いけない。
「えー、ちゃんと入れたよ。だけど、最原ちゃんが見てなかったんじゃん。だから、罰としてオレと一緒に昼寝しようよ」
「え、そうなの? で、でも、待って、その前に昼ごはんは食べさせて!!」
床に落ちた袋を見つめながら、僕はベッドの中に引きずり込まれていった。
(作成日:2020.04.05)