第165回 王最版深夜の一本勝負
お題「不意打ち」
遠くから、朝を伝える音がする。
(…………眠い)
枕元を探り、スマートフォンを掴んだ。
適当にボタンを押すと、アラームが止まる。
(あと、5分)
そのまま暖かさを求めて、手を動かす。
…………ない。
「んー?」
まぶたをゆっくりと上げて、あたりを見渡す。
誰もいない。
「おうまくん?」
寝る前まで一緒にいた人物の名前を呼ぶ。どこからも返事がない。
シーツにも触れてみるが、あまり暖かくはなかった。どこ、行ったんだろう。
「んー」
覚め切っていない頭を動かす。トイレ? シャワー? ……だめだ、眠い。
再び、夢の世界に旅立とうとした瞬間、扉が開く音がした。
「あー、思ったよりも時間かかっちゃったなー」
服を着替えるような音がしたかと思うと、布団の中に誰かが入ってきた。
見なくても分かる王馬くんだ。
「最原ちゃんは、……相変わらずのお寝坊さんみたいだね。こっちの方が都合がいいけど」
暖かい手が頭を撫でていく。
うっすらと眼を開くと、穏やかに微笑む王馬くんの姿が見えた。
(王馬くんだ)
無意識に王馬くんに向けて腕を伸ばした。
そのまま、首に抱きつくと王馬くんの唇をふさぐ。
「んっ!? さ、最原ちゃ、?」
あわてる王馬くんが珍しくて、何だか楽しくなってくる。
試しに舌も突っ込んでみたら、逆らうように押し返された。
「ふっ、あ、王馬くん」
「はあっ、熱烈なおはようのキスをありがとう。
今日は、映画見に行く予定だったけど、もしかして最原ちゃんはベッドの上でのデートの方がご所望かな?」
首にキスをされるとくすぐったい。
映画、そう言えばそんなこと言ってた気がする。
「うん、僕、王馬くんと、映画行く」
「…………………はああああ」
王馬くんは深くため息をつくと、僕の首元に顔を埋めてきた。
何かあったのかな?
「映画終わったら、覚悟してね、最原ちゃん」
「うん? うん」
よく分からないまま、頷く。
とりあえず、しばらくの間、暖かい腕の中で微睡んでいよう。僕も王馬くんにならって、首に顔を埋めた。
(作成日:2020.03.29)