第162回 王最版深夜の一本勝負
お題「電波ジャック」
『先ほどお送りしたのは、「ライアーゲーム」でした。夏ドラでも恋の駆け引きをテーマにしたものが人気ですね。皆さんはーー」
先週から、おじさんの勧めで事務所にラジオを流し始めた。最初はノイズに聞こえていたけれど、慣れてくるといいBGMになった。
何より良かったのが、依頼人との会話のきっかけが増えたことだ。単刀直入に依頼を聞き始めることもあるが、時事を絡めて雑談してから仕事をすることも少なくない。流行に敏感とはいえない身からすると、自然に情報が入ってくる状況は喜ばしいことだった。
『お昼のニュースの時間です』
(あれ?)
ラジオから、男性の声が聞こえた。いつもの女性の声じゃない。
それだけなら担当が変わったのかな、で済むが、問題はその声に聞き覚えがあることだ。
『壁の外に巨大な女子高生がいることが確認されました。師団は敵意がないかを確認すべく』
(王馬くんっ!)
スマートフォンを取り出すと、王馬くんの名前を呼び出した。気が急いて、何回も画面をタップする。
そのままスマートフォンを耳に当てると、呼び出し音が聞こえてきた。
『ただいま、速報が入りました。元超高校級の総統・王馬小吉と元超高校級の探偵・最原終一が、なんと万を持して婚約しました!』
「婚約してないからっ!」
誰もいない空間に向かって叫ぶ。
電話の相手はまだ出ない。しかも、この間に何件か着信があったことを知らせる音も鳴っている。
『悪の秘密結社の総統と正義の探偵のカップル。これからも動向から目が離せません。これで、お昼のニュースを終わります』
『…ラシの赤ちゃんが誕生しました。希望が峰水族館では、このアザラシの赤ちゃんの名前を募集しており』
(乗っ取り方雑じゃないか!)
明らかな嘘ニュースを読み上げていた時点で偽装する気がなさそうではあったが、それにしてももうちょっとやりようがあるだろう。
そんなことを考えていると、呼び出し音が途切れた。
『はーい、あなたの小吉だよー』
「王馬くん! ちょっと何やってるの!」
『何、って、何が?』
分かっていながらシラを切る。何とも腹だたしい。
「僕と王馬くんが、その婚約したって、話」
『えー、嘘じゃないよ。だって、最原ちゃん言ったじゃん。オレと結婚する?って聞いたら、「する。だから、ちょうだい」ってエロくおねだりしながらさ』
「そ、そんなの言ってないし、してない」
『覚えてないの? ほら、一昨日のベッドの中で、ね?』
「えっ」
そう具体的に言われると、言ったのかもしれないと思い始める。特に、一昨日のある時間帯に関しては、記憶に自信がなかった。
だけど、さすがにそんなことを僕は言わない気がする。……たぶん。
「嘘、だよね?」
『さあ、どうだろうね。あ、っと、オレ、これから仕事だから。また、ゆっくり話そうか。挙式の相談もしないといけないしね』
「ちょ、ちょっと待って!」
にしし、という特徴的な笑い声が聞こえたかと思うと通話が切れた。
ツーツー、と音を発するスマートフォンを思わず見つめてしまう。
「僕は、……どうしたらいいんだ」
指輪でも買っておいた方がいいんだろうか。
鳴り響き始めた電話の音を聞きながら、僕は頭を抱えた。
(作成日:2020.03.08)