上弦の月

第161回 王最版深夜の一本勝負
お題「ファンサービス」

「ご購入ありがとうございます。ここからはMV『素晴らしきニャンニャンニャン』の映像特典です。
 では、さっそく先程収録が終わったばかりの二人にインタビューしてみましょう。それでは、自己紹介と収録終わっての簡単な感想をお願いします」

 画面の中に猫の着ぐるみを着た二人の少年が姿を現した。
 見るからに、白猫は元気で黒猫は疲労困憊に見える。

「はーい。白猫にゃんにゃん担当の王馬小吉です。収録はめちゃくちゃ楽しかったよ! にしし」
「……黒猫担当の最原終一です。……疲れました」
「お二人はPV収録は今回で2回目ですが、前回より大変だったことはありましたか?」
「オレは特にないかなー」
「キミはそうだろうね。今回のPVは『猫のじゃれあい』というテーマだったのですが、そのせいで王馬くんが飛びついてきたり、突撃してきたり、ぶらさがったりでとにかく大変でした」
「『猫のじゃれあい』……。だからですか。王馬さんが最原さんの腰抱いてるの」
「え?」

 カメラが最原の腰あたりをズームアップする。
 インタビュアーのいうとおり、最原の腰に王馬の手が添えてあった。

「な、何してるの!? 王馬くん」
「そんな目くじら立てないでよ。猫のかわいいじゃれあいじゃん」

 最原は、勢いよく王馬の手を払い落とす。
 王馬は不満そうに、手を振りながら唇を尖らせた。

「王馬さんは、相変わらずイタズラがお好きなようですね。そういえば、前回のPVは天使が悪魔に悪戯するのがテーマでしたね。
 あのPVの反響すごかったですよね。特に、終盤の天使が悪魔にキス直前まで迫るシーン! 寸止めだったのを残念がる声が多発しました」
「…………そうでしたっけ」
「最原ちゃん、おぼえがないなんて分かりやすい嘘つく必要ないでしょ。
 あれについては、ファンレターでもよく話題になるんだよねー。日常でもお二人はキスするんですかー、とか、おはようとおやすみではどちらのキスの回数が多いですかー、とかいう質問もあったりするんだよ」
「え?」

 最原は、驚いたように王馬を見る。
 それに反応して、王馬は嬉しそうに最原に向かって手を振る。最原は反射のようにため息を吐いた。

「あ、最原ちゃん、いいこと思いついた。これ見てるファンへのサービスってやつ」
「いきなり何?」
「いいからいいから。最原ちゃん、ちょっとしゃがんで」
「う、うん」

 最原が王馬に向かって僅かにかがむ。
 すると、王馬は最原の頬をつかみ、唇を重ねた。チュッというかわいい効果音つきだ。

「~~~! な、何して」
「これがオレたちのファンサービスってね! さらにディープなのを見たいみんなは、頑張って楽屋の壁になってね」
「何言ってるの!? やらないから! これ以上なんてないから! あの、ここ、切って!貼って!ください!!」
「…………。はい! ではでは、キリがいいのでここまで。王馬さん、最原さん、素晴らしいファンサービスもありがとうございました。皆さん、次回のMVでもお会いしましょう」



(作成日:2020.03.01)

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