上弦の月

第160回 王最版深夜の一本勝負
お題「教会」

 ステンドグラスから光が降り注ぐ。
 その明るさが偽物であると知っていてもなお、差し込む光を美しく感じた。

(王馬くん、まだかな)

 すぐ来る、とは言っていたけれど、どれくらいなのか。軽くため息が漏れる。

(僕たちは、このだんがん紅鮭団で一緒に卒業できそうなほど仲が良い。
 だから、その二人が教会で、ってことは、誓いの……でも、まだ出会って数日だし、キスはしたけど、僕たち男同士だし)

 何だか落ち着かなくなり、あたりを見渡す。あまり広くはない教会には、いたるところに荷物が転がっていた。椅子の上にも容赦なく荷物が置かれている。
 僕は、荷物を脇によけ、椅子に腰をおろした。

(僕がログインして、そんなに時間は経っていない……よね)

 今、僕がいる場所はラブラブシミュレーターというプログラムの中だ。
 元々はバーチャルデスゲーム用のプログラムだったところを、入間さんが凶器を取り除き、ラブスポットを増やしたものに変更したという。
 そういう経緯もあり、イレギュラーながら、このラブラブシミュレーターの中もデート場所として指定できるようになっていた。

(そういえば、館からここに来るまでの間にラブアパートに似ている建物があったな。……いや、それがどうというわけじゃないけど……)

「最原ちゃーん。おまたせー」
「っ!」

 あわてて振り返る。見ると、二頭身のアバターが扉を開けて入ってきたところだった。
 見覚えのある姿に、安堵の息が漏れる。

「なになに、最原ちゃん、オレがいなくて寂しかった?」
「そんなんじゃないよ。それで、何する?」
「何って、恋人同士が教会に来て、やることなんて決まってるよね」
「そう、かな」

 椅子から立ち上がろうとして、王馬くんに肩を押さえられた。

「王馬くん?」
「病める時も健やかなる時も、オレを追いかけ続けると誓いますか?」
「それは、んっ」

 応えようとした唇に、触れるだけのキスが落ちた。
 それだけでも、僕の言葉を封じるには充分だった。

「にしし、いつだって最原ちゃんの心はオレでいっぱいだから答える必要はないよ!
 じゃあ、誓いの儀式を」

 そう言いながら、王馬くんは僕の身体を椅子に倒し始めた。
 王馬くんとの目線が近い。じゃなくて、

「な、何しようとしてるの!?」
「何って、分かってるでしょ? このタイミングでやることは一つじゃん。
 最原ちゃんがエロエロになる機能も追加してもらったんだよ」
「エロエロ、って、また、そんな嘘ついて……嘘、だよね?」

 嘘だと思いたいのに、不安になった。
 だって、あの入間さんならやってもおかしくはない。

「試してみる?」

 二頭身のアバターがにやりと笑った気がした。



(作成日:2020.02.23)

< NOVELへ戻る

上弦の月