上弦の月

第15回 深夜の王最小説60分一本勝負 お題「天気」
明日の天気はきっと雨

「何やってるの?」
「何って……見てわからない?」

王馬くんの手の中には白い布で作られた人形があった。
……さかさま吊りの。

「これで明日の最原ちゃんとのデートはからっからの快晴になるよ!」
「逆効果だよね、それ!」

つっこみながら王馬くんが持っていたてるてる坊主(逆)をひったくる。
“傑作だったのに”、という声が聞こえてきたが知らない。

「まったくさぁ」

呆れながら没収したてるてる坊主を見る。
そのてるてる坊主は、今にも『ロボット差別です』と言い出しそうな顔つきをしていた。

「…………」
「ね、ね、傑作でしょ!」
「……キーボくんに謝った方がいいんじゃないかな」
「最原ちゃん、このてるてる坊主をキー坊だと思ったの?
 ひどい、キー坊吊るされちゃってかわいそう」
「…………」

王馬くんの戯言を無視して、てるてる坊主を机の上に置く。
明日の外出は雨天中止だった。
それなのにわざわざ雨を呼ぶ道具を用意するなんて、王馬くんはどういうつもりだろうか。

「王馬くんは、その……僕と出かけるの……嫌だった?」
「…………」

つい呟いてしまった言葉のせいで、視線がじょじょにさがっていく。
いつもならば、すぐさま反応が返ってくるのに無言の時間が辛かった。

(どうしよう、“嫌だ”とはっきり言われたら立ち直れない)

僕も王馬くんも恋人同士だが、同じ男だ。
その二人が、カップル御用達の丘にデートに行く。
それは、端から見ると奇怪にうつるだろう。
僕は王馬くんの足先を見ながら、耐えるように手を握り締める。

「……あのさぁ、気にしてるのは最原ちゃんの方でしょ?」
「え?」

思わぬ台詞に顔をあげる。
王馬くんは呆れた、という表情を浮かべていた。

「明日は二人とも丸一日休みなのに、夕方から出かけるって言い出したの際原ちゃんの方でしょ?」
「それ、は」

確かに王馬くんは最初は朝から出かけよう、と言ってくれていた。
けれど、僕が拒んだのだ。
確かに僕にはまだ、太陽が高い時間に『恋人たちの聖地』と言われる場所にいける勇気がなかった。

「明日のお出かけは雨天中止だったじゃん。
 別にオレは最原ちゃんと一緒ならどこにいたっていいし、家の中でいちゃいちゃも捨てがたいなぁ、って思っただけだよ」
「王馬くん」

普段からかってばかりの王馬くんが僕のことを考えて行動してくれた。
その事実に胸の奥がじんわりと熱くなる。

「……にしし、明日が晴れでも雨でも楽しみだね」
「……うん」

王馬くんの手に僕は自身の手を重ねる。

「だからって、そのてるてる坊主は吊るさないからね」

軒先に吊るそうとしていた白い物体を、再度王馬くんの手の中からもぎどった。



(作成日:2017.10.11)

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