第159回 王最版深夜の一本勝負
お題「手作り」
朝起きたら、ご飯ができていた。
「はい、最原ちゃん」
王馬くんから、スプーンを受け取る。
そして、ぼんやりとする意識の中、机の上にあるものを見た。何だか赤い。
「…………これ、なに」
「どう見たってオムライスだけど?」
「ああ、そうなんだ」
確かによく見るとオムライスのようだ。
ケチャップで僕の名前が書かれていたから、すぐにオムライスだと気付けなかった。
(『最原ちゃん』か。漢字で書くなんて、王馬くん器用だな)
「最原ちゃん、もしかして、オレのお手製オムライスは食べたくない?
そんな、この間、天海ちゃんが作ったオムライすっすすとか言うのは食べてたのに、恋人であるオレのオムライスは食べられないの!?」
「いや、そんなことないけど」
オムライスをスプーンですくって、口に入れる。
かなりケチャップが多いが、普通の味だった。
「……最原ちゃん、おいしい?」
「うん」
それから何口か食べてから、ふと気付いた。
「……あれ、何で王馬くんがいるの?」
「最原ちゃん、寝ぼけてる? 昨日からオレたち同棲してるじゃん」
「そうだっけ?」
「そうそう。あ!おはようのチューしてなかったね。二人で決めたルールはちゃーんとやらないとね。ほら、最原ちゃん」
「んっ」
王馬くんに軽く口付けされた。
何だか頭の中がほわほわする。
「にしし、実感できた?
あ、そうだ。オレ、これからなぞとき用の備品作成作業があるんだよね。最原ちゃんはゆっくり食べてて」
「うん」
王馬くんが、僕の部屋に入っていく。
僕は王馬くんを見送ると、再びオムライスに口をつけた。
(……二人で決めたルール、って何だっけ)
ケチャップが口の中に広がる。水を飲んで流し込むと、少しずつ目が冴えてきた。
(さっき、王馬くんが〝どうせい〟って言ってたけど、……ドウセイ……同棲?)
オムライスを食べる手が止まった。急速に頭が覚醒していく。
スプーンを置くと、僕は急いで自分の部屋の扉を開け放った。
「僕たち、まだ同棲してないよね!って、何やってるの!!」
王馬くんが僕の部屋にあるクローゼットを漁っていた。
違う、漁ってるというよりは……。
「何って、最原ちゃんがなぞときに失敗したら着てもらう手作り衣装を収納している最中だけど」
「そ、そんな服着ない! 絶対着ないから!」
ここからでもきわどい衣装や下着が目に入る。
王馬くんは、僕にいったい何を求めてるんだ?
「そんなこと言ってるけど、なぞときには興味あるでしょ? ね、ここに問題があるんだけど、どうする?」
「そ、それは」
王馬くんが、紙の束を振る。
僕は思わず、その謎に手を伸ばした。
(作成日:2020.02.16)