第155回 王最版深夜の一本勝負
お題「ラブアパート」
だんがん紅鮭団。十日間を学園内で過ごし、恋愛的に結ばれた相手と卒業するバラエティ番組。
強制的に参加させられたため、最初は不安だった。だけど、最終日、僕は無事に卒業することができる。
卒業相手は、超高校級の総統・王馬小吉。王馬くんの研究教室で掴んだ彼の手は、とてもあたたかった。
王馬くんにはこれからも振り回されるだろうけれど、不安はない――はずだった。
「ねえ、何でここに来たの!?」
王馬くんに引っ張られて、僕は校門ではないところにたっていた。
ピンクのライトが交差する以外は、一見すると普通の建物。HOTEL KUMANOMI。別の名を『ラブアパート』。
料金形態に休憩が含まれているところから、ここは、その、……そういう、あれだった。
「そりゃ、アレなことするために決まってんじゃん。せっかく両想いになったってのに、このまま解散って悲しいでしょ?」
「りょ、両想いって……」
(あれ、そんな話したっけ)
王馬くんの研究教室で交わした言葉にそういう類のものは含まれていなかった気がする。
「……そんなこと言ってないよね?」
「え? 最原ちゃんは、オレのこと嫌い?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
「じゃあ、何の問題もないよね!」
僕の腰に王馬くんの腕が回る。
このまま、なし崩しにしてしまうのか?
「お、おお、王馬くん。ぼ、僕たちに、こういうのは、ちょっと早いんじゃないか」
「早い、って。じゃあ、最原ちゃんは、いつからなら早くないの?」
「そうだな。デートを重ねて、少しずつ進展すると考えると、……付き合いだして三年目の記念日、とか……」
「なっが! ねえ、最原ちゃん。オレたち健全な男子高校生だよ。そこんとこわかってる?」
王馬くんに頬を人差し指でグリグリと押される。
自分でも言っておきながら、長いと思ったから反論もできない。
「ま、でも、別にここに来た目的はそういうことするためじゃないんだよね。ほら、ここって来たことなかったでしょ?
最原ちゃんは、中がどうなっているか気になるんじゃないかと思ってさ。外出ちゃうと、二度と戻ってこれないから、その前にってね」
「………………別に気になってないけど」
「え? 最原ちゃんは見たくないの? ミラーボールが輝き、階の移動には滑り棒を使っている部屋を!」
「いや、そんなものないし」
「は? なんでそんなこと知ってるの?」
「ぐっ。いや、あからさまに嘘だったじゃないか」
「でも、今の言い方は、見たことあるんじゃないの?」
確かに好奇心に負けて、一度だけここに入ったことがあった。
もちろん一人でだ。
「ま、そんなことどっちでもいいや。これからはオレのそばに、ずーっといてくれるんだし。だから、一緒に入ろうね! 最原ちゃん」
「っ、わかったよ」
「別に最後までしないし。初めてだから、やさしくするよ?」
「……お手柔らかに」
僕は諦めて、目を閉じる。
王馬くんが扉を開ける音が、やけに耳に残った。
(作成日:2020.01.19)