上弦の月

第150回 王最版深夜の一本勝負
お題「先着1名」

「じゃじゃーん。この紙にサインするだけで、先着一名に素敵なプレゼントが進呈されるキャンペーン中だよ。最原ちゃん、どう? 一筆したためない?」

 王馬くんが僕の目の前で紙を揺らす。いきなりやってきたから、何事かと思ったのに、大したことはなさそうだ。

「……ちなみに、そのプレゼントって何か聞いてもいい?」
「やだなー、最原ちゃん。探偵なんだから、そのくらい推理してよ」
「そう」

 目の前にある紙は、どう見ても婚姻届だ。記載されている名前から、プレゼントの内容も想像できる。

(わざわざこんなことしなくたっていいのに)

 自然とため息がこぼれる。
 何も言葉にはしたことなかったけれど、僕と王馬くんは半同棲みたいにな生活を送っていた。
 王馬くんの何番目かのアジトで過ごしたかと思えば、今みたいに勝手に押しかけてきて泊まっていくこともある。

(王馬くんでも不安になるのかな)

 別に求められるまま、紙に名前を書いたっていい。だけど、本当にそれだけでいいのかな?
 ふと、机の上に依頼人からいただいたお礼の品が目に入った。そこから、リボンを取り、自分の首に巻いてみる。

「最原ちゃん?」
「言い忘れていたけれど、今、先着一名に素敵なプレゼントが進呈されるキャンペーン中なんだって。王馬くんは、欲しい?」
「…………そのプレゼントって、何してもいいの?」
「えっと、大事にはして欲しいかな」
「にしし」

 王馬くんの手が、リボンを掴んだ。

「じゃあ、プレゼントには、さっきの紙に名前書いてもらおうかなー」

 僕は、ゆっくりと目蓋を閉じる。かすかにリボンがほどける音が聞こえた。



(作成日:2019.12.15)

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