上弦の月

第143回 王最版深夜の一本勝負
お題「マフィア」

(悪の秘密結社って結局何なんだろう)

 最近、頭の中を超高校級の総統が占拠する。今日は、彼が統率している組織のことが、ぐるぐると頭の中を回っていた。秘密結社の活動内容は教えてもらっていない。知っている情報も王馬くんが総統で、構成員が1万人もいるということのみ。どこまでが本当なのだろう。

(悪の組織ってことは、マフィアみたいなものなのかな?)

 図書室に入る。あたりを見渡して、マフィアに関係がありそうな本棚の前に立った。

(マフィアって確か5千人くらいだったと思うけれど、……それよりも多い構成員)

 そんな巨大な秘密結社に心当たりはないし、人数に関しては嘘だと思う。
 では、悪の秘密結社とは結局どういうものなのだろう? 何か参考にならないかと、適当に本棚から本を取り、パラパラとめくってみる。どうやら、マフィアを題材にした物語のようだ。軽く読んでみると、何故かマフィアたちが指輪をめぐって戦闘をはじめた。どういうことだ?

「最原ちゃん、みーっけ!」
「うわっ」

 背後から飛び掛られてバランスを崩す。倒れそうになったところを、ぶつかってきた本人が支えてくれた。

「お、王馬くん、危ないよ」
「いやー、最原ちゃんの背中に幻のキングコブラバッタがいたから勢いあまっちゃったよ」
「どんなバッタだよ」

 王馬くんの方を振り返る。王馬くんは、いつもと変わらない笑顔を浮かべていた。
 ふと、王馬くんの指を見てみる。細く骨張った指。小柄なのに、しっかりと男の手をしている。

(指輪、は特にしてないな)

 もしかしたら本の中のマフィアたちみたいに指輪をしているかもしれないと考えたが、予想通り王馬くんの指には何もなかった。

「なに? 最原ちゃん。オレの手が気になるの?」
「いや、何でもないよ」
「ふーん」

 僕は持っていた本を棚に戻す。すると、王馬くんが、僕の手を取って指をつかんできた。

「な、なに?」
「うん? 最原ちゃんの指の大きさはかってるんだよ」

 王馬くんは、僕の左手の薬指を撫でる。その指が意味するところを何となく察して、頬に熱がのぼった。

「王馬くん。な、何、考えてるの?」
「だって、最原ちゃん。オレに指輪を贈ろうと思ったから、手なんて見てたんでしょ? いやー、サプライズ失敗して残念だね!」
「え? い、いや、違う」
「そんな奥ゆかしい最原ちゃんにオレからも指輪を贈ってあげるよ。やっぱりDICE仕様のリングがいいかな?」

 王馬くんが一人で盛り上がる。その間も、王馬くんの指が薬指をなぞっていく。

(何だか大変なことになった気がする)

 指輪を贈るなんて、王馬くんの嘘かもしれない。だというのに、心臓がうるさく鼓動を刻む。僕は強く止めることができないまま、王馬くんの嬉しそうな顔を眺め続けた。



(作成日:2019.10.27)

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