上弦の月

第137回 王最版深夜の一本勝負
お題「神社」

「じゃんけーんぽん。オレの勝ち! ち、よ、こ、れ、ー、と」

 王馬くんの影を追って、顔をあげる。空にある太陽が僕の目をさした。

(まだ、陽射しが強いな)

 夏まっさかりの時に比べれば大分落ち着いてきているけれど、それでも軽く汗ばむ。

「最原ちゃーん、じゃんけーん」

 王馬くんの掛け声が聞こえて、勢いで手を出した。僕の手はチョキ、王馬くんの手はパー。

「あ」
「あー、負けちゃった」
「えっと」

 僕は、目の前の階段をのぼる。チョキだから、王馬くんのところだ。

「よっと」
「ちょっと、のぼるときは『チョコレート』って言うのがルールなんだけど。最原ちゃんってば、つまんない」
「ええっ」

 王馬くんは、そう言うとさっさと階段をのぼっていった。どうやら、じゃんけんグリコはやめたようだ。

(まったく王馬くんは勝手なんだから)

 今日の外出だって、王馬くんが勝手に決めたようなものだ。本来ならば、空調の効いた部屋で小説を読んでいたはずなのに。
 王馬くんの後を追って、十数段しかない階段をのぼりきる。そして、鳥居をくぐるとそこはもう神社だった。
 あたりを見渡す。お守り売り場に王馬くんの姿を見つけた。

(早いな……)

 この神社に来た目的は、他ならぬお守りの購入だった。
 それというのも、王馬くんいわく『最原ちゃん、オレの夏休みの自由研究は学園周辺にある神社のお守り集めなんだよね! あと、残り一個だから付き合ってよ!』ということから、いつの間にか一緒に神社に行くことになっていた。

(そういえば、お守り買ったあと、どうするんだろう)

 人もそんなにいないし、お守りはすぐ買い終わるだろう。今日は特別な行事もやっていないし、神社で何をしたらいいのかなんてわからない。

「最原ちゃん、おまたせ」
「おかえり、王馬くん。……このお守りは?」

 王馬くんは僕に赤いお守りを差し出してきていた。これは、自由研究に使うお守りじゃないのか?

「今日のお礼だよ。オレだと思って大切にしてね!」
「あ、そうなんだ。えっと、ありがとう」

 受け取ってお守りを確認する。お守りには、『安産祈願』と書かれていた。何をどう安産するんだ。

「じゃあ、お参りして、その後近場でお茶でもし行こっか」
「そうだね」

(お参りか)

 何を祈ろうか。できれば、この神社のご利益がもらえるものがいいだろう。そこでふと気になった。この神社は、何がウリなんだ?

(健康? 勉強関係とか?)

「ねぇ、王馬くん。知ってたらでいいんだけど、この神社って何かご利益あるの?」
「え、最原ちゃん、知らなかったの? この神社って、ゴールインしたいカップルが祈願しにくることで有名なんだよ」
「へー、そうなんだ。……うん?」

 “ゴールインしたいカップルが祈願”? 疑問が浮かび上がったタイミングで、王馬くんに腕をつかまれた。

「じゃあ、お参り行こうか、最原ちゃん。お祈り内容は、オレとのラブラブ同棲生活のことについてでいいからね!」
「何だよそれ! 僕たちまだそういう関係じゃないだろう」
「にしし、大丈夫、問題ないよ!」

 ずるずると王馬くんに引っ張られていく。こうなると僕はついていくしかない。

(王馬くん、僕と同棲するつもりなのかな)

 まだ、恋人でもないのに、その考えは早すぎる。でも、何だかんだで王馬くんに押し切られる未来が見えた気がした。



(作成日:2019.09.15)

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