上弦の月

第12回 深夜の王最小説60分一本勝負 お題「○○の秋」「共同作業」
秋に行う共同作業

「じゃじゃーん」
「…………えっと?」

目の前の机の上には結構な大きさのケーキが置かれている。
薔薇の装飾が施されたなかなか凝ったデザインのケーキだ。

「王馬くん、これは?」
「最原ちゃん知らないの?
 今は秋なんだよ! 食欲の秋!」
「え、えっと?」

王馬くんの言いたいことが分からなくて首をかしげる。
食欲の秋で何故急にケーキを持ち出してきたのか。

「秋といえば栗だよね! 栗といえばモンブラン!
 というわけでオレと最原ちゃんのためのモンブランだよ!
 この薔薇とかすごいでしょう? クリームで出来てるんだよ」
「え、う、うん」

王馬くんのよく動く口に押されて思わずうなずく。
とりあえず、話をあわせておけばいいのだろうか。

「む、なーに、その生半可な返事。
 オレの愛を疑うの?
 まぁ、いいや、はい、最原ちゃん持って」
「疑ってはないけど、え? う、うん」

王馬くんからケーキナイフを渡される。
これは切り分けろということだろうか?

僕はケーキナイフを構えて切り分け対象であるケーキを眺める。
どう見ても二人で分け合うには大きい。

(えっと、これは16等分くらいがちょうどいいかな?
 その場合、どう切ったら……ん?)

ケーキの切り方を思案していたらナイフを持っていた手に暖かい感触が加わった。
不思議に思って確認すると、王馬くんが背後から僕の手を包み込むように握っていた。
いつの間に……?!

「それでは初めての二人の共同作業、ケーキ入刀です!」
「え?ちょ!」

王馬くんの力に引きずられ、無造作にケーキナイフをモンブランに突き刺した。
綺麗な薔薇が無残にも裂かれる。

「えんだあああああぁいやぁああああ」
「ちょ、ちょっと、ご近所迷惑だよ」

僕の苦言は何のそので王馬くんは器用にケーキを切り分けていく。
王馬くんは一口大にしたモンブランをひとつ手に持つと、僕の口元にまで運んできた。

「はい、あーん」
「いや、自分で食べるから、って、ううっ」

無理やりつっこまれたモンブランが舌の上に転がる。
思っていたよりも美味しくて、そのまま食べてしまった。

「あ、食べちゃったね」
「君が食べさせたんだろう」
「うん、そうだね!
 …………よーし、食欲の秋を堪能したところで、次はスポーツの秋だよ、最原ちゃん」
「話の展開が速いよ!」

叫んだ直後、僕の身体は背後にあったベッドに沈んでいた。

「……え?」
「ケーキはカロリーが高いよね!
 カロリーを消費するならやっぱり運動が一番だよね?
 運動をするには一人より二人!
 だから、今からカロリーを消費する共同作業をしようね!」
「ま、待っ」

王馬くんのよく動く口に押されて僕はまた流されてしまうのだった。



(作成日:2017.09.21)

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