第129回 王最版深夜の一本勝負
お題「かき氷」
「えーと、オレはレモンにしようかな。最原ちゃんはブドウでいいよね!」
「勝手に決めないで」
「店員さん、カキ氷のレモンとブドウを1つずつお願いね!」
「まいど!」
僕の意見を無視して、王馬くんは勝手にカキ氷を注文する。こうなってしまっては仕方ない。食べたい味があったわけでもないので、諦めてため息をつく。
空を見上げれば、雲ひとつない青い空に燦燦と輝く太陽があった。じんわりと肌を焼いていく熱は、今が夏真っ只中だと思い知らされる。
「最原ちゃん。はい、カキ氷」
「ありがとう」
王馬くんから、カキ氷を受け取る。そのまま、二人で近くにある木陰に向かった。
「いやー、暑いねー。こんなに暑いと全身から水が溢れて干からびちゃうよ」
「暑いのには同意するけど……」
王馬くんは、歩きながらカキ氷をほおばる。何とも行儀が悪い。
「最原ちゃん、食べないの? オレが食べさせてあげようか?」
「い、いいよ。ほら、座るよ」
たどり着いた木陰の下には、少し古びたベンチがあった。僕たちは、そこに二人並んで腰かける。
公園の中でも少し奥まったところにあるこのベンチは、人があまり寄り付かない穴場だった。木ばかりで見晴らしがいいわけではないけれど、誰にも邪魔されたくない場合は最適な場所だった。
蝉の声が聞こえる。僕は、カキ氷にスプーンストローを差して、紫色に染まった欠片をすくう。
「最原ちゃん、食べさせてあげようか?」
「さっき、断っただろ」
僕は、素っ気ない返事を返すと、かきがを口に含んだ。舌に乗った氷が甘い液体に変わる。暑さが少しだけ和らいだ気がした。
「最原ちゃん、最原ちゃん」
「んー?」
カキ氷を食べながら、王馬くんを見る。王馬くんはいい笑顔を浮かべると、舌を出してきた。
「どー? 色変わってるー?」
「ああ、……うん」
王馬くんの舌は、少し黄色っぽくなっていた。それは別にいい。問題は微かに動く舌の方だった。
(何か……何だろう)
王馬くんの舌を見ていられなくて、視線を外す。ついでに、カキ氷を一気に口の中に入れた。
「ちょっと、何でそんな生返事なの! もっと楽しく返事してくれてもいいじゃん。そうだ、最原ちゃんはどうなってるの?」
「僕は、ちょっ、っ!」
口の中に指が突っ込まれる。王馬くんの指は、僕の舌をつかむと、外に引きずりだした。
「にしし、最原ちゃんの舌、紫色になっちゃってるね。オレ、ブドウ好きだから、おいしそう」
(おいしそう、ってなんだよ)
舌が捕らえられているせいで、言葉は出てこない。そのまま、王馬くんの顔が近づいてきて、唇を塞がれた。
指は離れていったけれど、口に侵入してきた舌が僕のものを絡めとっていく。
和らいでいたはずの暑さが、またぶり返してきた。ああ、暑い。唇が離れた時には、僕はうまく息が吸えなくなっていた。
「ねー、最原ちゃん。色変わってる?」
王馬くんがもう一度、舌を出してきた。その王馬くんの舌の色はーー。
(作成日:2019.07.21)