上弦の月

第120回 王最版深夜の一本勝負
お題「ロボット」

「イラッシィマセ。選択ボタンをオシテクダサイ」
「おー、噂通りロボットだね!」

 王馬くんが入り口入ってすぐにあるロボットを指差した。

(ロボットが受付やってるロボットホテルとは聞いていたけれど)

 赤い服に東洋人の男性ロボット。見た目はかなり人間に近く、薄暗い照明では遠くからだと本物のように見える。
 話を聞いたときは、もっとロボットみたいな見た目……テレビでよく見る白くてつるつるしたパッペーくんみたいなロボットを想像していた。

(……キーボくんの方が、見た目はロボットだな)

「最原ちゃん、この部屋でいい?」
「ああ、うん。……え?」

 ロボットに気を取られていて、適当な返事をしてしまった。訂正する暇もなく、王馬くんはさっさとロボット前のパネルを操作してしまう。
 王馬くんが電子マネーをパネルにかざすと音がなり、目の前のロボットが口を開けた。口から板が伸びてきたと思ったら、板の先に鍵が乗っている。いろいろ斬新だ。

「へー、こうなるんだ」
「あれ、王馬くんもここ初めてなの?」
「そうだよ。存在は知ってたけど、お一人様で来るところじゃなかったからねー」

 王馬くんに手を引かれて歩く。足を進めながら、あたりを見渡す。壁を這うルンバみたいなもの。真ん中が動く歩道になっている廊下。なんだかSF映画に出てくる建物を彷彿とさせる。

「最原ちゃん、犬型ロボットも貸し出しできるってさ。借りる?」
「いや、いらないよ」
「だよねー。最原ちゃんっては、犬ばっか構って恋人を放置しかねないしね」
「迷い犬探しは依頼だって何度も言っただろう」

 そうこう言い合ううちに、泊まる部屋についたようだ。王馬くんがパネルにかざすとドアが開く。
 王馬くんに続いて部屋に入る。その部屋には、ベッドがひとつしかなかった。

「お、王馬くん。ベッドが一つしかないんだけど」
「恋人と一緒にホテル泊まるってのに、ツインとるわけないじゃん」
「だ、だけど、僕たちはまだ、その、数回しか、そういうのは……い、今からツインに変えよう!」
「ふーん」

 王馬くんが部屋にあったタブレットを叩く。すると、どこからか金属音が聞こえ始めた。

「えっ?」

 壁からいきなりアームが出現した。アームは迷いなく、僕のお腹に巻きつく。意味がわからず、アームを引っ張るがビクともしない。

「このホテルのオプションでロボットがいろいろやってくれるコースがあるらしいよ。最原ちゃんはどれがいい?」

 王馬くんが壁のタブレットを外して、こちらに見せてきた。ピンク色の画面には、見るのもおぞましい内容が羅列されている。思わず視点をはずすと、耳に息を吹きかけられた。

「っ!」
「ねー、最原ちゃん。ロボットに色々されちゃうのと、オレに色々されちゃうの、どっちがいい?」

 耳をねっとりと舐められ、顔に熱があがる。選択肢は決まっている。僕が選ぶのは――。



(作成日:2019.05.19)

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