第11回 深夜の王最小説60分一本勝負 お題「まじない」
白が結ぶ縁
窓から顔を出して月を見る。
空には綺麗な満月が顔を出していた。
こういう天気がまじない日和というのだろう。
僕は願いことを書いた紙を大事に握り締める。
『王馬くんと両思いになれない』
紙にはそう書かれていた。
(ライターで燃やすかトイレに流す)
《塩まじない》と書かれたサイトを凝視する。
効力がかなり高いおまじないらしい。
やり方と書かれたたったの数行を何回も何回も読み込んだ。
新月か満月が願いが叶いやすいと聞いて、今日この日まで待った。
塩も家庭のものでいいらしいが、わざわざ真宮寺くんから霊験あらたかなものを譲ってもらった。
トイレの前に立つ。
火で燃やすのは寮の部屋で行うにはリスキーなため、水で流す方法に決めていた。
願い事を書いた紙で塩を包む。
“なくすおまじない”。
この願い事をトイレに流すことによって書いたことをなくしてしまうのだ。
『王馬くんと両思いになれない』……この事象がなくなる。
「よし」
今まさに紙をトイレに――
「最原ちゃーーん!!」
「え?うっわあああああ!!」
横方向に身体が飛んだ。
身体は衝撃を殺しきれずに壁に激突する。
「っっっ!」
「あ、ゴメンね、最原ちゃん!
どっか怪我しちゃった?傷舐めて治してあげるね!」
「い、いらないよ!」
壁にぶつかった痛みと王馬くんとの距離が近いことに頭が混乱する。
とりあえず今の状況を確認しようと試みる。
(えっと、腰に王馬くんの腕があって、というか王馬くん近い!
あれ、ここトイレ。そうだ、トイレにいたんだ。
…………ん?トイレに何故王馬くんが?)
「“王馬くんと両思いになれない”?」
「え?」
何回も心の中で読み上げた文章が耳から入ってきた。
思わず声の方に顔を向けると僕がトイレに流そうとしていた塩入り紙が王馬くんの手の中にあった。
(え、ど、どうしよう)
混乱状態であったところに、さらに混乱要素が積みあがって頭の中が真っ白になる。
そっと王馬くんの顔を伺い見るが、よく見えない。
(あ、もうだめだ、死んだ)
顔から血の気が引いていく。
おまじないに頼ったのがダメだったのか。
「ふーん」
「え?」
王馬くんは持っていた紙を僕の手に戻すとトイレ中に放り込ませた。
それは塩まじないの正式なやり方で……。
「にしし、最原ちゃんのお願い叶っちゃったね」
「王馬……くん?」
「最原ちゃん、だーいすきだよ」
僕の戸惑いは王馬くんの腕の中に消えていった。
(作成日:2017.09.13)