第114回 王最版深夜の一本勝負
お題「ぬいぐるみ」
それに目が止まったのは、本当に偶然だった。
小さなテディベアのUFOキャッチャー。その中の二つの影に目を奪われた。
腕をリボンで結ばれた紫のテディベアと青いテディベア。
(……いいな)
ふと、自分の腕を見下ろす。王馬くんの腕と僕は腕は、卵一個分くらいの距離があいている。今日はゲーセンデートだというのに、同性だから埋まらない。
UFOキャッチャーのテディベアをもう一度眺める。彼らに性別なんてないのは分かっているけれど、どうどうと触れ合っていることがうらやましかった。
「あっ、最原ちゃん、見て見て、テディベアのUFOキャッチャーだってさ! よーし、オレの腕の見せ所だね!」
「え?」
王馬くんは意気揚々と、UFOキャッチャーに向かう。王馬くんの狙いは、どうやら僕が見ていたテディベアたちのようだ。『腕の見せ所』という言葉自体には嘘はないようで、二つのテディベアを繋いでいるリボンを綺麗に掴んでいく。アームが弱くて一回では成功しなかったが、三回目で無事にゲットした。
「すごい。王馬くんうまいね」
「狙ったものをキャッチするのも総統の心得の一つってね。はい、最原ちゃん」
「え?」
「オレ、取って満足しちゃったから、最原ちゃんにあげるよ」
王馬くんの顔とテディベアを見比べる。もしかして、僕が見ていたことに気付いていた、のか? なんだか胸の奥がむずがゆい。
「ありがとう」
王馬くんからテディベアを受け取ると、リボンを解いて紫のテディベアの腕に結びつけた。そして、そのまま紫のテディベアを王馬くんに差し出す。
「ん?」
「こっち、王馬くんが持ってて。二つあるのに、両方僕が持ってるのはどうかと思うから」
「ふーん」
王馬くんは、僕の顔とテディベアを交互に見ると笑みを浮かべながら受け取ってくれた。
王馬くんの指がテディベアのリボンを解いていく。そして、何故か、王馬くんの小指と僕の小指をリボンで結んだ。
「な、にして」
「テディベアは離れちゃったからねー。持ち主同士だけでもひっついてた方がいいでしょ?」
小指に王馬くんの温度が伝わってくる。その熱が、顔にも上がってきそうだった。
「……こんなの意味ないでしょ」
「にしし。でも、最原ちゃん、こういうの嫌いじゃないでしょ?」
「バカ」
僕は、王馬くんの頬に向かって、テディベアの顔をお見舞いした。
(作成日:2019.04.07)