第110回 王最版深夜の一本勝負
お題「寝坊」
顔に光が刺さっている感覚がして、うっすらと目を開けた。光の方向に顔を動かす。カーテンの隙間から、外の光が室内に侵入してきているのが目に入った。外は既にかなり明るいみたいだ。
枕元にあった時計に手を伸ばす。時間は9時過ぎ。オレにしては、珍しくよく眠ってしまったようだ。
「んー」
隣から唸り声がする。カーテンから声の方へ視線を向け、そっと顔を覗き込んでみた。そこには、盛大に眉を寄せた綺麗な顔があった。
「寝坊助最原ちゃんってば、イヤな夢でも見てんのかな?」
「おう、ま、くん」
「ん?」
恋人の口から洩れた自分の名前に、思わず耳を傾ける。眉を潜めるような夢の中で、一体オレはどんなことをしているのだろう。
「……僕のパンツ、食べないで」
「…………………は?」
予想もしなかった夢の内容に、呆れた言葉しか出せなかった。どうした、夢の中のオレ。さすがに愛しの最原ちゃんのものとは言え、パンツは物理的に食べるのは無理だ。
「最原ちゃん、見るならもっと色っぽい夢にしてよねー」
オレ、最原ちゃんのパンツ食べたことないから、そういう夢はファンタジーだし、一から構築するのは大変でしょう? それに比べて色っぽい夢は、寝る前にやったアレそれを再現するだけでいいんだけどなー。余計な労力いらないでしょ?
……何だか、いろいろ考えていたら少しだけ腹が立ってきて、最原ちゃんの鼻をつまんだ。
「んー」
「あはは、最原ちゃん、ぶっさいく」
「パンツは、膨らませないから、空気いれても、おまくん」
「……本当に一体どんな夢見てるの?」
一瞬、この寝坊助をたたき起こしてやろうかとも考えたけれど、昨夜はかなり無理をさせてしまった自覚はある。証拠に、最原ちゃんの首元には赤い痕が、布団の隙間から見え隠れしていた。
(今日、どっか行こうって言ってた気もするけれど、これじゃ無理かな)
特にお店を予約してるわけでもないし、急な予定変更も問題ないだろう。
今日の外出は諦めて、恋人の身体に身を寄せる。最原ちゃんの肌の温度が伝わってくると、オレにも再度睡魔が襲ってきた。昨夜はハッスルしてしまったからね。これは自然の摂理と同じくらい、しょうがないことなんだよ。
オレは最原ちゃんに軽くキスを落とすと、睡魔にあらがわず目を閉じた。
「おやすみ、最原ちゃん。次は、もっと艶っぽい夢を見てね」
(作成日:2019.03.10)