第10回 深夜の王最小説60分一本勝負 お題「プレゼント」「甘い/苦い」
Sweet or Bitter or Spicy?
「最原ちゃん、誕生日おめでとう!
はい、プレゼント」
「ありがとう、王馬くん」
僕は王馬くんから渡された箱を見る。
(お菓子かな?)
青緑色のラッピングを施された四角い箱はサイズといい重さといい食べ物のようだ。
いつもは形に残るものを送ってくるのに珍しい。
…………過去に押し付けられた首輪や足環と同類のものじゃないのは喜ばしいことだ。
「ほらほら、あけてみて」
「う、うん」
青緑色をはがして箱をあける。
中には茶色の12個の塊が入っていた。
(チョコ?)
箱の中に入っているチョコはどれもややデザイン性のある形をしており、パッと見ただけでも手間がかかっていると分かる。
「にしし、たまにはお菓子もいいでしょう?
わざわざイギリスから取り寄せた紅茶が使われたチョコだよ」
「へえ」
「ほら、食べてみてよ」
「う、うん」
隅にあったチョコをひとつ摘む。
王馬くんの言っていたとおり、チョコからは紅茶のニオイが漂っており美味しそうだった。
そのチョコの味を味わおうと口を開く。
「なんてったってそのチョコはオレが最原ちゃんのことを一生懸命考えて選んだんだよね。
最原ちゃんの舌を考えて甘いのも苦いのも辛いのも味わえるようになってるんだから」
「え、待って」
王馬くんの台詞を聞きとがめ、もう少しで口に入りかけていたチョコを元の位置に戻す。
甘い・苦いはいいとして、『辛い』とは何だ?
「あれ?最原ちゃん、どうしたの?」
「……辛いってなに?」
「……そんなこと言ったっけ?」
「言った」
王馬くんは笑顔を絶やさない。
絶やさないどころか笑みが深くなっていないだろうか?
(もしかして……ロシアンルーレットチョコか!)
王馬くんの意図に気付き、ソファから腰を浮かす。
しかし、その行動は読まれていたようで、太ももの上に乗られて逃げることを阻止されてしまった。
「もう最原ちゃんはわがままだなー」
「わがままとかそういう問題じゃないでしょう!?」
「たとえ成分的に辛いチョコだったとしても、オレとの濃密な時間で最原ちゃんにとっては甘いチョコに早変わりするんだから問題ないって」
「ならないよ!辛いものは辛いって」
どうにか辛いチョコから逃げようと試みるが、力で勝てたことがない僕はやすやすとソファに縫いとめられた。
「しっかたないなー、最原ちゃんってば。
ならさ、オレがしっかり食べさせてあげるからね!
ほら、オレからのプレゼント、ちゃーんと身体全部で受け止めて」
「え?身体?ちょっと待っ、んんー!!」
王馬くんの歯に挟まれたチョコは僕の口の中で溶けて消えた。
チョコの味はビターだった気がするけれど、交わされる舌は甘さしか与えてくれなかった。
(作成日:2017.09.06)